大河さんは昔愛した人がいたんだ。



「優しかったんだろうな、その人にも」

「どうだろう。まぁ、昔のことだ」



モヤモヤする。



どんな人だったのか、前ははぐらかされたし。



「その人と結婚してたら、あたしとは出会わなかったんだね」

「ナナが生まれる前の話だぞ。お前がジローに育てられてからはお前一筋だよ」



なんかヤダ…。



どんな人?



妖の世界には行ったことあるの?



あたしと同じように、当主の婚約者としてみんなに大事にされてた?



「人間だったんでしょ?」

「もういいだろ?」

「やだよ。聞きたいもん…」

「…………自爆する気?」

「どんな人だったか教えて?」

「ハァ…」



語り出した大河さんは、あたしの髪を撫でながら時折頭にキスをする。



今はナナだけだよって、そう言う気遣い。



「美人だった」

「それは想定内」

「何年前だったか…。もう100年近いかもな」

「えっ⁉︎そんなに?」



妬かなくてもいいくらい昔だ…。