「うん、ちょっとね」
「え~? 何よ~? 私に言えないこと?」
そうじゃないんだけど、なんかこういうことは人に軽く言っちゃいけない気がする。
「そうかもね」
はぐらかすように笑うあたしに夏帆は不思議そうな顔をしていた。
「やだー! 叶真ってば~」
教室前の廊下までクラスの女子の声が響いてくる。
またか……。
毎朝ほんとに懲りないな。
「またあんの女好きめ~!
乃愛という彼女がいながら、ほんっとに懲りないなぁ!」
叶真を取り囲む取り巻きの子達に舌打ちして、夏帆が教室に入っていく。
あたしはいつものことだと思いながら、両手に抱えた手提げバッグに視線を落とす。