桜が舞うこの季節…私は高校生になりました。



私、入江 莉那(いりえ りな)入学初日から大ピンチです…。
「ねぇねぇ俺達と遊ばない?」
突然、見知らぬ男の人達から話しかけられて体が固まる。
「……」
口を開き声を出そうとするが声が出ない…
「もしかして、声が出せないの?」
「可哀想〜俺等が慰めてあげるよ〜w」
どうしよう…誰か…助けて…。
「おい。何してんだ?」
首をかしげながら近づいてくる1人の男の子。
「ああっ?なんだよ?」
男の人達は睨みながら少しずつ彼に近づいていく。
「…嫌がってんだろ?とっとと離せよ。」
「あ?ずいぶんと偉そうだなぁ?」
「おい、やめろよ。そいつ龍閃組(りゅうせんぐみ)のやつだろ?痛い目に合うぞ…」
「なっ……チッ…行くぞ…。」
そういうと悔しそうな顔をしながら男達は去って行った。
「大丈夫か?」
私が黙って頷くと彼はホッとしたのか安堵感を見せていた。
「うわっ!?やべっ遅刻する…じゃあ俺、行くから」
そういうと彼は急ぎ足でその場を去って行った。
……お礼もまともに言えなかった……今度…また会えるかな…?
そういえば龍閃組って…どこかで聞いたことがあるような…
あ…もうこんな時間!?急がなくちゃ…!


「莉那おはよう〜♪」
そう言いながら声を掛けてきたのは私の親友である相澤 咲綺(あいざわ さき)。
声が出せなく友達を作ることが苦手な私を昔から助けてくれた唯一の友達。
「今日は入学式だね〜♪あ、その前にクラス発表されてるから見に行こう〜??」
急いでバッグからノートを取り出し、
『うん!』
と書き返事する。
「じゃあ行こう〜!」


「えっと…私は…あ!1組だ!莉那は??」
『1組!同じだね!』
「ホント!?やったね!1年間よろしく♪」
『よろしくね!』
そう二人で話してると遠くから放送が響き渡る。
「入江様。至急、校長室までお越しください。」
またあの話かな…?
『ごめん、ちょっと行ってくるね?さきに開場に行っててもらえる??』
そう書くと咲綺は頷き、
「わかったよ〜先に行ってるね〜!」
そう言いながら入学式の会場へと走って行った。
さてと…校長室に行こうかな…


「ご入学おめでとうございます。つきましては多額の寄付、本当にありがとうございます。心より感謝申し上げます。」
そう言い深々と礼をする校長先生。
…毎回、大変なんだよね…これ……声が出ないから話すことは出来ないし…印象悪く思われてないといいなぁ…
『どうぞお気になさらず…こちらこそありがとうございます。これから3年間よろしくお願いします。』
「いえいえ…後日、改めて郁奈(かな)様に御挨拶させていただきます。」
おばあ様の名前が出され思わず固まる私。
「?莉那様?」
名前を呼ばれハッと我に返る。
『すみません…わかりました。こちらから伝えておきます。』
「ありがとうございます。」
『それでは失礼します。』
そう言うと私は礼をし、その場から立ち去る。
退室後、思わず私はため息を漏らす。
はぁ……疲れた…もう嫌だなぁ…
昔からずっと家の名前に縛られて生きてきたからなんか…1人の人としてではなく入江家の人間としてしか見られてない気がする……
あ…早く行かなきゃ…!咲綺が待ってる…!


「あ!莉那!遅いよー!」
『ごめんね、ちょっと長引いちゃって…』
「そっかぁ…大変だね…お疲れ様。」
そう言いながら咲綺は私の頭を優しく撫でてくれた。それがすっごく嬉しくてつい顔がにやけてしまう。
「あ、そろそろ始まるみたいだよ〜!」
そう言われステージの方を見ると既にたくさんの来賓の方がいる。
しかもその全員が知り合いなため、なんだか少し気まずい…
そんな風に思いながらふと周りを見回すと今朝、会ったあの男の子の姿があった。
それに気づいたのか彼は私に向かって優しく微笑んでくれた。
その瞬間、一気に自分の体温が上昇してるのに気づいた。
頬が火照り、動悸がする。
「?莉那どうかしたの??顔が赤いよ??」
『う、ううん!何でもないよ!』
慌てながら咲綺に返事をする。
「そっか〜!あ!そういえば…あの人カッコよくない??」
と言いながら咲綺が指を指したのは彼。
そっか…やっぱり他の人から見ても彼はカッコイイんだと改めて実感する。
そんな話をしている間に式が終わる。
「あ!終わったみたいだね〜!」
『うん』
そう返事をしながらも内心はとてもヒヤヒヤしていた。
来賓の方々の話を聞いてなかったのをおばあ様に知られたらどうしよう…まぁ…今のところ家の人達の姿は見えないし…大丈夫だよね…?
「莉那様」
ふいに名前を呼ばれ、体がビクンと反応する。
『はい…?』
「いやぁ〜5年ぶりでしょうか?あっという間にこんなにも美しくなられて…』
『ありがとうございます。』
愛想笑いをしながら答えるとようやく誰か思い出した。
…前に入江家主催のパーティーに来てた方だ。
話しかけてくるということはおそらくビジネス関係の話であろう。
「ところで今後のビジネスの事に関してなのですが…」
やっぱり…予想通り…
私本人に話があって声をかけてくれたのでは?という淡い期待があったのだが彼の一言によってその期待が一気に崩れる。
『生憎ですが私はまだそういう関係のことは一切関わっておりませんので…代わりにおばあ様にお伝えしておきますね』
微笑みながらそう返事をすると彼は嬉しそうに笑い
「では後日お伺いさせていただきます」
とだけ伝え、帰って行った。
「莉那〜?」
咲綺は少し不満そうな声で私の名を呼ぶ。
『ごめんね、ちょっと知り合いの方と話をしてて…』
「全然大丈夫だよ!早く教室に行こう〜!」
少し小走りをしながら教室へ向かう。


黒板に書かれている座席表を見ながら自分の席を探す。
えっと…あ、あった。あの席かな…?
窓側にある自分の席を見つけバッグを置き着席する。
ふと隣の席を見るとなにやら人だかりができている。
女子に囲まれている席に座っていたのは今朝の彼だった。
しばらく彼をじっと見つめているとふいに目が合う。
ドキッと心臓がはねる。
すごく澄んだ瞳だなぁ…このままずっと見ていたい…そう思った。
「あの時の…」
その言葉が彼の口から出た途端、周りの女子の冷たい視線が私に一斉に集まる。
怖くなった私は思わず彼から目を背け無視をしてしまった。
その後、彼の口からさっきの言葉の続きが出てくることはなかった。


HRが終わると私はすぐに彼の席へ行き、屋上まで来てくれるように頼む。
数分後、彼は屋上まで来てくれた。
『急にごめんなさい…今朝、助けてもらったお礼がしたくて…ありがとうございました。』
私は静かに礼をする。
「そんなの全然気にしなくていい。俺は当たり前のことをやっただけだし…それよりもなんで筆談なんだ…?」
少し答えようか戸惑ったがどうせそのうち知るだろうと思いあえて打ち明けた。
『5年前に両親を亡くした影響で声がでな くなったんです。お医者様が言うには精神的なものだそうですが…』
すると彼はとても気の毒そうな顔をし、
「そうか…」
と消え入りそうな声で言うと私の頭を優しく撫でてくれた。
それに動揺した私は思わず後ろに一歩下がり体制を崩してしまう。
「危ねっ!」
とっさに叫んだ彼は私に手を伸ばす。
それを見ながら私は空中に浮く。
ダンッ))
ふぅ…着地…ってあれ…?
目に彼の唖然としている姿が映る。
「お前…バク転して…!?」
しどろもどろな口調をしながら彼は私にゆっくりと近づく。
やばいっ………!!!!!
入江家の娘の私がこんなはしたないことをしてるなんて他の人に知られたら…
入江家の恥だ……
さぁ…っと顔が青ざめていくのを感じながら私は彼に話しかける。
『あの!!今の事なんですが!』
「お前すごいな!」
………え………?
「あの状態でバク転ってなかなか出来ない。よっぽど運動神経がいいんだな」
と言いながらさも嬉しそうに笑う彼。
『ど、どうも…』
少しぶっきらぼうに返事をする。
「お前名前は?」
『入江…莉那…』
あぁ…やっぱり自分の名前を言うのは好きじゃない…
きっとこの人も入江家の人間としか見てくれないんだ…
少し悲しくなり目に涙が浮かぶ。
「そうか…俺は早瀬 蓮(はやせ れん)。よろしくな莉那」
彼は満面の笑みを浮かべながら私を見る。
その瞬間、私の頬に一筋の涙が流れる。
かなり動揺しているのか早瀬君は何回も顔を覗きこみながら大丈夫か?と声をかけてくれる。
初めて咲綺以外の人で私のことを見てくれた。恐る恐る私は彼に
『どうして私が入江家の人間なのに驚かないんですか…?』
と聞くときょとんとした顔で彼は
「そりゃあ驚きはするけど…入江家の人間でもお前が莉那ってことに変わりはないだろ?」
とさも当たり前のように答えた。