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14日、バレンタインデー。町の色めき立つ空気に触れたくなくて、明季は今日外出していない。

「…絶対無理だ。言いたいことの100万分の1も言えない…多分。」

 多分ではなく、絶対に。洋一からは1時には着くという連絡があった。12時50分を過ぎた今、もう時間がない。ふと、明季のスマートフォンが震えた。着信は洋一からだった。

「も、もしもし。」
『おー明季。今明季んちのアパートの下。開けてくれー。』
「わかった!」

 いつもより少しテンションの高い洋一の声に、心拍数がわかりやすく上がった。これはひどい、もうすでに重症だ。ガチャリとドアを開けると、笑顔全開の洋一が待っていた。

「バレンタインチョコをいただきに参りました。」
「…あっためるから、どうぞ。」
「あっためる?」
「…洋一の好きなスイーツとか知らなかったから、自分が食べて美味しいって思うものを作った。」
「まじか!楽しみ!」

 にっこりと笑った洋一は、まるで子供みたいだ。洋一はいそいそといつもの場所に座ると、ふーっと息を吐いた。

「…ちょっと緊張するんだけど。」
「…あっためるから待ってって。」
「はーい。」
「何飲む?」
「…何が合う?結構甘い?」
「甘いの、苦手?」
「いーや、全然。」
「私のオススメは紅茶ストレートだけど。」
「んじゃそれで。」

 紅茶を準備しながらレンジの様子を見る。丁度チンという音がした。皿にのせると香ばしい匂いがした。

「あーこれ知ってる!あれだろ、んーと…フォンダンショコラ!」
「大正解。」
「俺もこれ好き!中からチョコがとろっと出てくるんだよな。」
「上にバニラアイスのせる?」
「のせる!」

 つくづく今日の洋一は子供みたいだ。