「…明季ちゃん、私と同じ壁にぶつかっていますね。自信がないんですよね、私も明季ちゃんも。誰かに愛される自分を想像できない。好きって言葉を疑ってるわけでもなんでもなくて、ただ、自分が誰かに好かれるはずもないって思っている。特に異性に対しては。ね?」

 美海の笑顔が涙で滲んだ。美海の目の前で泣くなんて、きっと兄に抱かれた次の日以来だ。

「明季ちゃん、私は明季ちゃんの隣に誰か男の人が並ぶのならば、越前くんがいいです。」
「…洋一は、本当にそれを望んでいる?」
「…それは、本人じゃなきゃわかりません。でも、明季ちゃんは越前くんの隣にいることを望んでいますよ。だからこんなに悩んで苦しいんです。どうでもいい人ならこんな気持ちになりません。」
「…今更素直になるとか無理、絶対できない。美海みたいに可愛くない。」

 好きだなんて言えない。傍にいてなんて図々しい。一体何をどう言えばいいのかわからない。

「受け売りですが、私の大好きな言葉を明季ちゃんにあげます。」
「…何。」
「聞いてほしい人に聞かせたい言葉があるのなら、きちんと伝えた方が絶対に良い。」

 聞かせたい想いなら、言葉にならなくてもたくさんある。それを言葉にするのが、今の自分には絶対的に難しい。

「…バイト先の店長さんの言葉で、私は進むことを決めました。言葉にならない想いがたくさんあって、結局まとまらないまま圭介くんに会いましたけど、圭介くんは待ってくれました。
…本当に話を聞く気がある人は最後まで耳を傾けてくれます。圭介くんはいつだってそうです。きっと、越前くんは明季ちゃんの話を最後まで聞いてくれます。上手に言えても、言えなくても。」

 そんな気がした。洋一が明季の話を遮るのは、明季が自分を蔑んだり、低く見たりする言葉を発した時だけだった。

「美海。」
「はい。」
「…ありがとう、ちょっと…勇気出た。」

 明季がそう言うと、美海はにっこりと笑ってからゆっくりと明季を抱きしめた。美海の優しい香りが、明季の身体を温かく包む。

「明季ちゃん、ファイトです。越前くんに酷いこと言われたらすぐに呼んでください。私がガツンと言ってやりますから。」
「…ありがと。ガツンと言う美海とか、ちょっと見たいかも。」
「ふふ。」