* * *

『圭介くんにはガトーショコラを作りますよ。少し甘さは控えめで。』
「…彼女強いな、そういうところ。」
『明季ちゃんは越前くんに何を作るんですか?』
「まだ洋一って言ってないんだけど。」
『越前くん以外に、明季ちゃんが頭を悩ませる人っていますか?』

 あまりにも的確に真実をついてくる美海に明季はたじろいだ。沈黙は落としてしまったら肯定と同じだ。

「美海、いつからそんなに鋭くなったんだっけ。」
『鋭くなんてなってませんよ。明季ちゃんと越前くんはわかりやすく仲良しです。』
「それは違う!」
『…違いません。越前くんの前での明季ちゃんは可愛いです。これって前に明季ちゃんが私に言ってくれたことです。私が圭介くんの前で可愛くなっているのだとしたら、明季ちゃんが可愛くなるのは越前くんの前でですよ。』

 美海の言葉は強く響いた。前はこんな風に明季に何かを言ったり、主張したりすることはなかったのに。

「…怖いんですよね、それはなんとなくわかる気がするんです、私。」
『……。』

 美海の言う通りだ。怖い。怖くて仕方がない。洋一が自分をどんなに好きだと言ってくれても、信じることができない。洋一をではなく、誰かに愛される自分を。

『一緒に作りませんか。バレンタインのチョコ。明季ちゃんは何を作るつもりですか?』
「…フォンダンショコラ。」
『美味しいですよね!明季ちゃん好きでしたね。一緒に食べれたらいいですね。』
「…美海。」
『明季ちゃん?』
「明日、美海んち行ってもいい?」
『もちろんです。お待ちしてます。一緒に頑張りましょうね。』

 こんなに前向きな言葉を誰かに対して掛けることができるような人に、自分はなれるのだろうか。美海は変わった。圭介に出会って変わったのだ。自分はそんな風に、変わってもいい人なのだろうか。それすらもわからない。

「ありがとう、美海。」
『はいっ!』

 伝えたいことなら山ほどある。伝えるかどうかを決めるのは自分で、伝えることができるのもきっと自分だけだ。
 その勇気を、少しだけ友人にわけてもらいたい。我儘を承知で。