必死すぎる洋一の姿に笑いが込み上げてくる。ほんのりと耳が赤いのは、きっと自分と同じだと思えば自然に温かい気持ちが広がっていく。外はこんなにも寒いというのに。

「…単純。」
「それくらいしかいいとこねーから。」
「…そんなことは、ないと思うけど。」

 そんなことはない。自分にないものをたくさんもっている。それにどれだけ救われてきたのかわからない。

「え?」

 必要なものは勇気。たくさんくれた優しさに、少しは見合うものを返したい。

「…甘えてばっかりの自分から…ちゃんと卒業するから、あと3日だけ待って。」
「…明季?」

 洋一が当たり前みたいに隣にいてくれることは、本当は全然当たり前なんかじゃない。

「…当たり前みたいに隣にいてくれて、ありがとう。」
「…お、おう。」

* * *

 明季からチョコを貰えるということが確定した段階でもう十分すぎる展開だったにも関わらず、こんな言葉まで貰うことができて洋一の方が狼狽えた。だからこそ、あんな返事しかできなかった。
 それからどんな話をして明季を家まで送ったのかも定かではない。

「…洋一。」
「ん?」

 冷静な自分に、見えるだろうか。

「…14日、バイトは?」
「午前中だけ。」
「じゃあ午後…。」
「チョコ、取りに来るわ。」
「…へんなの、普通チョコって渡しに行くものでしょ?」
「いや、貰いに来るよ。明季、俺んち知らねーじゃん。」
「教えてくれれば行けるけど。」
「明季んちの方が綺麗だし、明季んちに来たい。」
「…それならそれでいいけど。」
「じゃあ、14日。」
「…うん。」

 ほんのりと染まった頬に手を伸ばした。もうそれは反射みたいなものだった。

「…楽しみにしてっから。結構まじで。」
「…期待を裏切らないようにする…よ。一応。」

 自信がなさそうな明季は何だか物珍しくて、洋一は思わず笑ってしまった。