「明季とはタイプ違う子だけど。」
「あたしみたいな人の方がいないって。」
「明季はいねーの、付き合ったやつ。」
「いる、かな。中学の頃。」
「一人?」
「うん、一人。先輩。」
「どういう人?」
「…それ聞いてどうすんの?」
「そいつに近付けば、明季に好かれるかなって。」
「単純っていうか…バカなの、あんた。」

 明季は真剣な顔で呆れている。明季は知らないかもしれないけれど、男はバカだし単純だ。


「…明季?」
「洋一が真面目なんだとしたら、…その真逆みたいな男だったよ。正直誰でも良かったから。」
「…待てよ、お前。」
「だいじょーぶだって。さすがに中学生で身体売ってないから。」
「…軽く言うんじゃねーよ…心配になるわ。」
「洋一はほんっと真面目だよね。敵わないなぁってそういうところで思わされる。」

 明季が天井を仰いだ。この目は、前にも見た目だ。

「心配してくれる人がいれば、あたしも違ったのかもね。」
「…じゃあ、もっと早く出会いたかった。」

 もっと早く出会ったところで、明季と今のように関係を築けたかどうかなんてわからない。それでも、今の明季の目を見てしまえば、そんな目をしたやつにしたくなかったと傲慢すぎる願いが生まれてしまう。

「…なんで洋一が泣きそうなの。」
「むしろお前がなんで泣かねーの。」
「…泣いても仕方ないんだもん。泣いても、強い力の前にはひれ伏すしかない。」
「…それ、前言ってた話?」

 明季は静かに頷いた。

「話せないことがたくさんあるって、さっきあたし言ったけど…話してもいいよ。家族の話。」
「いいのか。」
「泣きそうな洋一の顔見たら、冷静になれる。」
「こんな時までおちょくるのかよ、お前。」
「おちょくってなんかないよ。…これで嫌われたら、それまでだなって。」
「…嫌わねーっつってんだろ。」