「…なんであたしが好きなの、ほんとに。」
「…わかんね、でも、明季が松下さんのこと話すときにドキッとしたのが多分始まり。」
「なにそれ。」
「松下さんの話をするとき、すっげぇ優しい顔するんだぞ、お前。」
「…美海は特別だから。」
「なんで松下さんは特別?」
「…美海は、多分、生まれて初めてあたしという人間を好きになってくれた人だから。」

 真っ直ぐすぎる目に、明季の『特別』であるという重さを知る。

「洋一は、家族に大事にされて育ってきた人でしょう?」
「…どうなんだろ、両親と姉と、あと弟。真ん中だからある程度は放置されてきたけど。姉がすげぇわがままだし、弟は無駄に運動神経いいから、俺はあんまり注目されてないかもな。」
「それでも、家に帰れば温かい笑顔があったでしょ?」
「…まぁ、メシ自分で作ったこともあったけど。」
「美海はあたしと境遇が似てた。だから必然的に一緒にいるようになったんだけど。昔は美海の笑顔の胡散臭いことったらなかったんだから。」
「へぇー…松下さんが?」
「それがさ、今は浅井サンの隣で、美海は変わっていった。変化する前の美海を知ってたからこそ、本当に嬉しいなって。そりゃ優しい顔にもなるよ。あの地獄みたいな日々に、光を差してくれたのは、紛れもなく美海なんだから。」

地獄みたいな日々を、想像したことならあった。前に少しだけ明季が言っていた、『身内に抱かれた』ということからも、何となく想像できた。ただ、それには触れてはいけないような気がして。でも触れなければ、明季の心に触れることもできないことに気付いて。だから踏み込みたくなった。踏み込ませてほしい、と願ってしまった。

「今まで普通な女の子としか付き合ったことないでしょ?」
「…普通かどうかは知らねぇけど。過去1人しかいないし。」
「あれ?意外と経験少なめ?」
「…お前が俺を何だと思ってるのか知らねぇけど、俺適当に付き合うとかそういうのしたことねぇから。」

過去に1人、付き合った子がいた。確かに、明季には似ていない。ただし、明季よりは普通だと洋一は思うのだけれども。