しばらくして,朔は,
陽和を呼びに,2階に上がった。

「陽和…?」

陽和の部屋に入ると
朔はきょろきょろと中を見回した。

「わ…なんか…久々だけど
 あんまり変わってないな…」

そこには,少し古びては
来ていたが,女の子らしい
ぬいぐるみや,レースやリボンが
たくさんあしらわれた品が
並べてあった。

「…なんか…ちょっと
 恥ずかしいね…」

「低学年の頃は,何回か
 遊びに来たこと…あったな…」

「そうだねえ…」

「あ…懐かしい,これ
 卒業アルバム…だ…」

「あ…懐かしい,これ
 卒業アルバム…だ…」

朔は,陽和の机に並んでいた
小学校の卒業アルバムを
取り出した。

「わー,陽和,
 かわいい…!
 天使だあ…」

「も…もうやだ…
 朔ちゃんは,日焼けして
 真っ黒だねえ」

「ああ…ホントだあ
 あ…これ…」

中から出てきたのは,
陽和がにっこりとほほ笑む
修学旅行のバスの中の写真。

「あ…これ…
 朔ちゃんが撮ってくれた
 …写真だよね」

「そう!俺…
 この写真が…ホントは
 すげー…欲しくてさ…
 だけど,陽和しか映って
 ないから…さすがに
 バレバレすぎて…
 買えなかったんだよね…」

陽和はクスクスと笑った。

「そっか…朔ちゃん…
 そんな風に思って
 くれたんだね」

「だってさ,この笑顔…
 見てみろよ…もう…
 天使…だろ…?」

「も…や…やだなあ…
 恥ずかしいよ朔ちゃん…」

「…ホント可愛い…。
 でもさ,この写真さあ…」

「え?」

「俺が撮ったの知ってたの,
 公ちゃんと,高橋先生
 だけなんだけどさ…」

「うん…」

「俺が,陽和のこと好きって,
 この写真でばれちゃってた
 らしいよ…」

「え…そ…そうなの?」

陽和は,少し恥ずかしそうに
懐かしさに浸っていた。

朔は後ろから
陽和を抱きしめる。

「さっき…さ…
 お母さんに…了承得たから」

「あ…うん…」

「ちゃんと…約束したから」

「約…束?」

「陽和を一生…
 幸せにするって…」

「え…朔ちゃん…?」

「だから…あの…さ…
 帰ろう…?
 俺たちの…家に…」

照れながらそう言った朔に
陽和は,心の底から湧き上る
幸せを…感じていた。

思いの詰まったアルバムを
閉じようとしたとき,
一枚のメモがひらりと落ちた。

「ん?
 …え…これ…」

朔は,拾い上げたメモを見て
驚いていた。

そこには,幼い朔の字で

『体育館裏で
 待ってる。 朔』

と書かれていた。

「これって…もしかして…」

陽和は,顔を真っ赤にして
コクリと頷いた。

「あのときの…」

朔は,鮮明に思い出していた。
あのとき,震える手で
これを書いて…そして,
胸が張り裂けそうなくらい
ドキドキしながら,陽和の靴箱に
これを入れたこと。

居てもたってもいられなくて
結局靴箱に来てしまったとき,
タイミング悪く陽和が来たこと。

どうしようもなくて
陽和の手を引いて,体育館裏へと
走ったこと。

あのとき,確かに,
二人の物語の第1章は
幕を閉じてしまった。

だけど…その物語には
続きがあって…
思い続けた結果…
今はこうして,自分の腕の中に
陽和を抱きしめられる距離まで
近づけた。

朔はもう一度陽和を
ぎゅっと抱きしめた。

「よかった…
 このメモが…
 悲しい思い出のまま,
 封印されなくて済んで…」

「え…?」

「今なら…少し切ないけど…
 でも…幸せな思い出だったと
 …思える…」

「朔ちゃん…?」

「俺…あのときの自分のこと
 すごく嫌いだった」

「…朔ちゃん?」

「だけど…今は,少しだけ
 好きになった」

「…うん…」

「ちょっとヘタレだけど,
 少しだけ勇気を出して
 思いを伝えられたこと…
 やっぱり…よかったって
 今なら思えるよ」

「…うん」

そういうと,朔は,
メモを見ながら微笑んだ。

「おい,あの頃の俺…
 今,俺,陽和を
 こんなに近くで
 抱きしめてるぞ…」

「や…やだ…朔ちゃん…」

「初めてのことは
 全部陽和と二人で経験した…
 それに…これからは,
 一緒に…住むんだ…
 うらやましいだろ…?」

「ふふ…もう…」

朔はそれ以上は,口に
出して言わなかったけれど
心の中でつぶやいていた。

 そして…もうすぐ…
 陽和は…俺と…
 同じ苗字に…なる…

 きっと,3人で
 幸せに…なるから…

あの頃の…
切ない思いをしている
朔にも陽和にも…
伝えてやりたい。

少し時間はかかるけれど…
ちゃんとこの恋には
ハッピーエンドが…
待ち受けているからって…。