次の週末。

陽和の荷物を朔の車に入れて
部屋に運ぶ。

家具の多くは,朔の部屋にも
あったので,いらないものは
実家に運ぶことになった。

一人暮らしとはいえ,
長年,住んでいた家には,
たくさんの荷物がある。

朔は,自分の家へと荷物を
運んだあと,
陽和の荷物と一緒に
実家に顔を出すことに
していた。

陽和は,照れるし,
結婚でもないんだから…
といっていたが,
朔の気持ちが収まらなかった。


チャイムを押すと,
陽和の母親が出てきた。

朔は,小学生のころに
見た,陽和の母親と,
あまり変わっていなかったことに
少し驚いていた。

陽和の母親も,
「恋人を連れてくる」と言われた
ものの,こんなに背の高い
男性が現れたものだから,
少し驚いた顔をした。

「あ…あの…」

「あ…まあ,
 上がって下さい」

陽和の母親はにっこり笑い,
リビングへと朔を誘った。

ソファに座った朔は,
さすがに少し緊張していた。

「あの…えっと…」

陽和も少し緊張した面持ちで
母親の顔を見上げる。

「陽和から,少し聞いています。
 高校の先生をされていて…
 お兄さんの子どもさんを
 育ててらっしゃるのよね」

「あ…はい。
 えっと,高比良朔と申します。
 陽和さんとは,
 結婚を前提に真剣に
 お付き合いさせて
 いただいております」

「え!朔ちゃん!!?」

結婚という言葉に驚いた陽和は
朔の方を目を丸くして見つめた。

しかし,陽和の母親は,
その言葉には,無反応で…
不思議そうな,なんとも
言えない顔をした。

「え…あなた…どこかで
 会ったことあるような
 気がしていたけれど…

 もしかして…
 小学校の時の…
 朔ちゃん…なの?」

「あ…はい…。
 お…お久しぶり…です」

朔は,ばつが悪そうに
頭を下げる。
陽和が,自分のことを説明
しているかと思っていたので
母親の反応は意外だった。

「やだ!陽和ったら
 言ってくれたら
 よかったのに…」

「…だって…」

陽和はちょっと顔を赤くして
母親の方を見る。

「そう!あの,朔ちゃんなのね!
 陽和が小さい時から,
 ずっとずっと大好きだった
 あの…」

「ほ…ほら,お母さん!
 そういうこと,絶対言うでしょ。
 だ…だから嫌だったのよ」

「えー!いいじゃないの。
 だってねえ,陽和ったら…」

「もう!」

朔は,陽和親子の意外な会話に
少し顔を赤らめていた。

「でも…どうして…
 陽和と…?」

「あのね,私が勤めている
 保育園の裏側が,
 朔ちゃんの勤めている高校
 だったの。

 それで…再会して…」

「へえ…」

母親は感心した顔をした。

「あの…お母さん…?
 私ね…朔ちゃんと,
 由宇ちゃんと,
 一緒に…暮らすことに…
 したの…」

「ええ…」

「まだ…先のことは
 わからないけれど…
 今,私にとって,
 2人は…かけがえのない
 …存在なの…」

「そう…」

陽和の母親は,
陽和の言葉をかみしめるように
ゆっくり頷いた。

「ねえ…陽和…?」

「何…?」

「お母さん,陽和が決めたことに
 反対するつもりはないのよ。
 …だけど…ちょっとだけ…

 高比良君と…二人で
 お話がしたいんだけど…
 いい…?」

「え…?」

陽和は驚いた顔をして
母親と朔の方を交互に見た。

「朔ちゃん…?」

「…うん,俺も,
 お母さんと,少し
 話がしてみたいな」

朔はそう,優しく諭し,
陽和は納得して,席を外した。

「じゃあ,私…ちょっと,
 部屋を片付けてくるね…」

陽和は少し不安そうな顔をして
2階へ上がった。