シャディアの悲鳴と共に服が引き裂かれていく。

「いやあ!やめて!!」

必死で身をよじって抵抗しても両手を拘束されているシャディアに出来ることは僅かだった。シャディアに傷をつけることを避けるようなことを言っていた男は短剣を投げ捨てて素手で彼女の服を割いていく。

「その調子。どんどん嫌がってくれ。」

腰に巻いていた帯も取り除かれ、シャディアの肌がどんどんと露わにされていった。恐怖で涙が止まらない、それでもシャディアは抵抗することを決して止めなかった。ただただ必死でもがき続ける。

「おい、もう始めてんのか?」
「いま始めたところだ。俺が見つけたんだからまずは俺1人でやらせろよ?」
「ははは。盛ってんな。」
「久々に商売じゃねえ女を相手にするんだ、気合が違う。」
「ははは。」

言葉を交わす間もシャディアは懸命に抵抗した。しかし手を休めている癖に男は少しもその抵抗を感じていないようだ。シャディアを襲う男の後ろにさらに3人の体格のいい男たちがいた。風情からして堅気でないことがよく分かる。

嫌らしく笑う男たちに恐怖と嫌悪が増していった。何とかして逃げないと、そんな思いでシャディアは全身を使ってもがき続けた。あまりに激しく抵抗する様子が可笑しいのか男たちは楽しそうに笑い声をあげる。

「放して!誰か!」
「誰も来ないとは思うけどなー。一応口は塞いどくか。」

呑気な声を出しながら男はさっき引き裂いたシャディアの服を掴んで丸め始めた。少しずつ退路を断たれていくシャディアはもうとにかく暴れて逃げるしかないと身体を揺らす。頭を振り乱した瞬間、目の端に映ったのはイザークから貰ったリボンだった。

髪の毛に編み込んでいたからどんなに荒くされてもまだ髪に結われたままだったのだろう、それがシャディアの希望の光の様に感じて胸が熱くなった。イザーク、イザーク、心の中で何度も彼の名を叫ぶ。

「放してっ…イザークさん!イザーク!!」

その瞬間、風を切る様に一本の矢が水車小屋の檻をすり抜けて壁に突き当てられ地面に落ちた。残響の様に矢が射られた鋭い音が部屋に響き、シャディアに跨っていた男は身体を起こす。

「…矢?」

信じられないものを見る様にして床に転がる矢に目を細めた。そして全員が矢が抜けてきたであろう天井付近の窓を見上げる。その瞬間、さらに一つ下の窓を今度は突き破って矢が室内に入って来た。

「きゃああ!」

上から壊れた硝子が降ってきてシャディアは思わず身体をうつ伏せになる様に丸くなる。男たちもそこから離れるように後ろへと離れた。

「何だよ、一体何なんだ!?」
「おい、敵襲だ!」
「煩え、騒ぐな!!」

シャディアに跨ったままの男だけは取り乱すことなくその場に身を低くして次の動きを待っているようだ。しかしまた次の瞬間、今度はその下の窓を突き破り、また同じように矢が射られた。

「きゃあ!」
「うわああ!」
「騒ぐんじゃ…!?」

今まで一本ずつしか射られなかった矢が次は同じ場所に連続して射られたようだ。立って狼狽えていた男の右肩に矢が突き刺さり、うめき声をあげてその場に崩れ落ちた。次第にうめき声が小さくなり異変を感じた仲間が駆け寄る。

「お、おい!!?」
「どうした!?」
「…ど、毒だ!こいつもう動かねえよ!!」

その言葉に反応して、残りの男たちは一目散に外へと繋がる扉に向かい走っていった。しかし、風を切る矢の音が再びしたかと思えば男たちは背中や肩に矢を受けてその場に倒れてしまった。

「…何だ…?」

シャディアの頭上から男の戸惑った声が聞こえてくる。それでもシャディアは怖くてただ震えながら蹲ることしか出来なかった。

「てめえっ何者だ!?」
「うわっ!」

部屋の外が騒がしくなり、男は咄嗟に飛ばしてしまった短剣を掴んでシャディアの身体を引き起こして立たせた。首元に腕を回して短剣の先をシャディアの心臓に向ける。

「…うっ。」

恐怖で足が竦んでしまったシャディアには自分で踏ん張る力があまり残されていない。首に食い込む男の腕がシャディアの呼吸を少しずつ奪っていき更に身体に力が入らなくなった。

「っくそ!しっかり立てよ!!」

シャディアを抱えなおそうと一度腕を緩めるが、シャディアはそのまま脱力して床に倒れそうになる。酸素を必死で取り込もうと咳き込んで蹲るシャディアを自分の思う様に男が引き寄せても彼女の両手を繋いでいる鎖がそれを邪魔して体勢が崩された。

その瞬間、男の目前を掠めるようにまた矢が部屋の中へ射られる。

「っひ…くそ!!」

何かが起きている。それは分かっていてもなかなか正体が見極められない焦りが男の平常心を崩していった。外からそれは近付いてきているのか、騒がしさが近付いていると構えた瞬間またも矢が室内に射られ鋭く空気を裂いた。

次は男の額を掠め、男はシャディアを腕に抱えたまま頭をふら付かせてその場に膝をつく。痛みがある額に手を当てればその掌を埋めるほどの血が付いていた。腕の中では意識を朦朧とさせながらも肩で息をするシャディアがいる。

「…何だ?」

シャディアを攫ったことで何かが起こっているのだろうか、そんな柄にもない想像をして自分自身に失笑した。苛立ちが混ざった声を呟いて剣を握る手に力を入れる。そしてまた矢が、今度は3本同時に射られ男は身を縮めた。

「…っくそ。」

矢が当たった先の壁を見て男が息を荒くしながら悪態を吐く。男は矢は確実に角度を変えて下方へと迫ってきている事に気が付いたのだ。

「くそ!何なんだよ!?」

いつ来るか分からない矢に次こそは射抜かれるかもしれない、そんな恐怖を抱いた男は焦りの声を上げた。その時だった。

「ここか!?」

扉が開く大きな音と共に勢いのある声が部屋に入ってくる。意識が完全に窓の外にあった男は不意打ちの様な形でその声を受け、ほぼ反射的に扉の方を見た。予想外の事が続いていた為か短剣はシャディアの身体から離れて宙に浮いている。