イザークと出会ったあの街でしつこくシャディアを追い回した人物、信じられないことに今シャディアの目の前にいるのはその男だった。あの時感じた異様な雰囲気、その執念の深さを思い出してシャディアは身震いをする。
「やーっと捕まえた。ああ、面倒だった。」
そう言いながらその場にしゃがんだ男は終始笑顔だった。それは言葉通りシャディアを捕まえたことへの達成感だろうか、首を回しながら疲れたと言わんばかりの態度を見せる。ふと目が合った時に感じた男の瞳の奥の怪しい光にシャディアは恐怖した。
「逃げ足は速いし邪魔者はいるし?でもまあ…それも終わった話だけどさ。」
そういうと男は視線を別の方へと移した。その意味はシャディアから少し離れた床に置かれているドーラを指したものだったらしい。シャディアが巻いた布から少し顔を出したドーラがシャディアの目にも確認できた。
「私のドーラ!」
「やっぱりね、あんたはリリーの生き残りって訳だ。あの馬鹿どもがうっかり全滅させたって聞いた時は心底呆れたもんだけど、だから俺にもやらせてくれって言ったのにさ。…まあ無事で何よりだったよ。」
突然に語られた言葉に驚きシャディアは男を見上げる。その瞳は信じられないものを見るように揺れていた。この男はどこまで知っているのだろう、鼓動が速くなっていくのが分かる。
「そのおかげで君とドーラの価値は跳ね上がった訳だし?」
悪びれる様子など微塵も感じない、この男はただ自分の思い通りに事が運んで喜んでいる事しか見せなかった。だが口にしている言葉は最悪だ。シャディアは自分が体験してきた辛い記憶を身体中に巡らせて苦しくなった。
「ドーラを持ってるってことは君は作れるんだろう?君は長子ってことだね、妹や弟はどうしてる?」
目の前で村が壊されていくあの光景が脳裏に浮かんで呼吸が乱れていく。何故村の決まりを知っているのか、その答えはすぐに想像がついて息が苦しくなった。捕まった村の人たちを見ていたシャディアはエリアスに伝えたばかりだ。捕まった人は長子ではなかったからおそらくは、と。
男はそれを知っているのだ。
「はあ…本当に、さっさと掴まっていれば俺もこんなに手間をかけずに済んだんだ。希少価値があるお嬢さんとはいえ…やっぱり気に入らないよな。」
そう呟くなり男はシャディアに近付いて顎を掴み上を向かせた。シャディアから苦しそうなうめき声が漏れたがお構いなしだ、彼女の手元の鎖がじゃらりと音を立てて男の勢いを表す。
「気付いてる?あんたは今からどこかの腐った大金持ちに売り飛ばされるんだ。」
「…っ!?」
「観賞用…だったらまだマシかな?まだまだ若いし好き放題に身体は弄られるだろうね。夜も朝も関係なく。」
シャディアが息を飲んだことが分かって男は嬉しそうに喉の奥を鳴らした。まだ頭痛が治まらない、どうやら攫われた時に何か薬をかがされたのだとシャディアはこんな時なのに冷静に分析した。思考が働かないと身体もままならない。視界の端にはこちらを見ている男が数人いた。
自分が置かれている不利な状況にシャディアの鼓動はどんどん速くなっていくのだ。
「空いた時間はドーラを作らされ、時には音を奏でる様に命ぜられ。気が向いたら抱かれる、案外それもマシな方かも。変な性癖を持ってる奴にあたるとそれこそ想像を絶する生活が待ってるだろうね。」
男の話は皮肉にも安易に想像しやすくしてくれているようだった。自分のすぐそこまで迫っているかもしれない未来の話にシャディアは恐怖から少しずつ身体が震え始める。心臓の音が強く響いて痛い。
「子供は生んでくれよ?そしたらますます価値が上がる。商品説明に付け足しが出来そうだな、“リリー族の生き残りは貴方だけが手に出来ますよ”って。」
それはいつか自分がイザークに話した内容と類似していた。ただ違うところはその相手を自分で選んでいるかどうかだ、なんて危ない覚悟をしていたのだろう。あの時のイザークの表情や言葉を思い出して胸が震える。彼は本当に心配してくれていた、今更ながらに気が付いて自分の浅はかさを悔やんだ。
「あんたが女で良かった。言い値が付きそうだ。」
完全に物扱いする男にはシャディアの感情なんて関係なかった。その事が男の視線や表情、態度からありありと伝わってきてシャディアの心に絡みついてくる。
「名前は何ての?」
「…っ」
「言いたくないならいいけど。」
その瞬間、シャディアの顎を掴んでいた手が思いきり振り切られ、シャディアは勢いよく横に投げ飛ばされた。
「…っああ!」
身体は飛ばされても繋がったままの鎖に引っ張られて身体が二つの力に翻弄される。どうやら手首に繋がっている鎖は柱に括りつけられているようだった。遠くまで飛ばされそうだったのに鎖がそれを許さない。シャディアの手首に強い痛みが走り思わず悲鳴が出てしまった。
地面に擦った肩も痛い、打ち付けた身体も痛い、頭痛もどんどん酷くなっているような気がしてシャディアの呼吸が定まらなくなってきた。身の危険をつよく感じて震えが止まらない。ただただ怖くて思考も回らなくなってしまった。
「なあ他に仲間はいねえの?居ても答えそうにないけど…あの街らへんを探したらいるのかな。」
でももう時間も無いし、今回は無理だろうな。そんな事を呟きながら男は投げ飛ばされたまま動けないシャディアに跨った。見下ろしてくる視線があまりに冷たくて身震いする。強烈な警戒音が頭の中で響いてももう手の打ちようがなかった。
「顔は傷つけないから安心していいよ。そこそこの顔してるんだし。」
「…放して。」
「いいね、抵抗される方が燃える。」
そう言うなり男は短剣を取り出してシャディアの胸元から勢いよく服を切り裂いた。
「いやああっ!」
「やーっと捕まえた。ああ、面倒だった。」
そう言いながらその場にしゃがんだ男は終始笑顔だった。それは言葉通りシャディアを捕まえたことへの達成感だろうか、首を回しながら疲れたと言わんばかりの態度を見せる。ふと目が合った時に感じた男の瞳の奥の怪しい光にシャディアは恐怖した。
「逃げ足は速いし邪魔者はいるし?でもまあ…それも終わった話だけどさ。」
そういうと男は視線を別の方へと移した。その意味はシャディアから少し離れた床に置かれているドーラを指したものだったらしい。シャディアが巻いた布から少し顔を出したドーラがシャディアの目にも確認できた。
「私のドーラ!」
「やっぱりね、あんたはリリーの生き残りって訳だ。あの馬鹿どもがうっかり全滅させたって聞いた時は心底呆れたもんだけど、だから俺にもやらせてくれって言ったのにさ。…まあ無事で何よりだったよ。」
突然に語られた言葉に驚きシャディアは男を見上げる。その瞳は信じられないものを見るように揺れていた。この男はどこまで知っているのだろう、鼓動が速くなっていくのが分かる。
「そのおかげで君とドーラの価値は跳ね上がった訳だし?」
悪びれる様子など微塵も感じない、この男はただ自分の思い通りに事が運んで喜んでいる事しか見せなかった。だが口にしている言葉は最悪だ。シャディアは自分が体験してきた辛い記憶を身体中に巡らせて苦しくなった。
「ドーラを持ってるってことは君は作れるんだろう?君は長子ってことだね、妹や弟はどうしてる?」
目の前で村が壊されていくあの光景が脳裏に浮かんで呼吸が乱れていく。何故村の決まりを知っているのか、その答えはすぐに想像がついて息が苦しくなった。捕まった村の人たちを見ていたシャディアはエリアスに伝えたばかりだ。捕まった人は長子ではなかったからおそらくは、と。
男はそれを知っているのだ。
「はあ…本当に、さっさと掴まっていれば俺もこんなに手間をかけずに済んだんだ。希少価値があるお嬢さんとはいえ…やっぱり気に入らないよな。」
そう呟くなり男はシャディアに近付いて顎を掴み上を向かせた。シャディアから苦しそうなうめき声が漏れたがお構いなしだ、彼女の手元の鎖がじゃらりと音を立てて男の勢いを表す。
「気付いてる?あんたは今からどこかの腐った大金持ちに売り飛ばされるんだ。」
「…っ!?」
「観賞用…だったらまだマシかな?まだまだ若いし好き放題に身体は弄られるだろうね。夜も朝も関係なく。」
シャディアが息を飲んだことが分かって男は嬉しそうに喉の奥を鳴らした。まだ頭痛が治まらない、どうやら攫われた時に何か薬をかがされたのだとシャディアはこんな時なのに冷静に分析した。思考が働かないと身体もままならない。視界の端にはこちらを見ている男が数人いた。
自分が置かれている不利な状況にシャディアの鼓動はどんどん速くなっていくのだ。
「空いた時間はドーラを作らされ、時には音を奏でる様に命ぜられ。気が向いたら抱かれる、案外それもマシな方かも。変な性癖を持ってる奴にあたるとそれこそ想像を絶する生活が待ってるだろうね。」
男の話は皮肉にも安易に想像しやすくしてくれているようだった。自分のすぐそこまで迫っているかもしれない未来の話にシャディアは恐怖から少しずつ身体が震え始める。心臓の音が強く響いて痛い。
「子供は生んでくれよ?そしたらますます価値が上がる。商品説明に付け足しが出来そうだな、“リリー族の生き残りは貴方だけが手に出来ますよ”って。」
それはいつか自分がイザークに話した内容と類似していた。ただ違うところはその相手を自分で選んでいるかどうかだ、なんて危ない覚悟をしていたのだろう。あの時のイザークの表情や言葉を思い出して胸が震える。彼は本当に心配してくれていた、今更ながらに気が付いて自分の浅はかさを悔やんだ。
「あんたが女で良かった。言い値が付きそうだ。」
完全に物扱いする男にはシャディアの感情なんて関係なかった。その事が男の視線や表情、態度からありありと伝わってきてシャディアの心に絡みついてくる。
「名前は何ての?」
「…っ」
「言いたくないならいいけど。」
その瞬間、シャディアの顎を掴んでいた手が思いきり振り切られ、シャディアは勢いよく横に投げ飛ばされた。
「…っああ!」
身体は飛ばされても繋がったままの鎖に引っ張られて身体が二つの力に翻弄される。どうやら手首に繋がっている鎖は柱に括りつけられているようだった。遠くまで飛ばされそうだったのに鎖がそれを許さない。シャディアの手首に強い痛みが走り思わず悲鳴が出てしまった。
地面に擦った肩も痛い、打ち付けた身体も痛い、頭痛もどんどん酷くなっているような気がしてシャディアの呼吸が定まらなくなってきた。身の危険をつよく感じて震えが止まらない。ただただ怖くて思考も回らなくなってしまった。
「なあ他に仲間はいねえの?居ても答えそうにないけど…あの街らへんを探したらいるのかな。」
でももう時間も無いし、今回は無理だろうな。そんな事を呟きながら男は投げ飛ばされたまま動けないシャディアに跨った。見下ろしてくる視線があまりに冷たくて身震いする。強烈な警戒音が頭の中で響いてももう手の打ちようがなかった。
「顔は傷つけないから安心していいよ。そこそこの顔してるんだし。」
「…放して。」
「いいね、抵抗される方が燃える。」
そう言うなり男は短剣を取り出してシャディアの胸元から勢いよく服を切り裂いた。
「いやああっ!」