「昨日は夜だったから気付かなかったけど、本当に人がたくさんいる大きな街なのね。」
「ああ、雨も降っていたしな。」
「こんなに活気があるのね…。」
こんなに多くの人を見たのは初めてなのだろうか、シャディアの目はキラキラと輝いていた。あの服が綺麗、あんな髪型は初めて見た、周りの服装が気になるようで無意識にか心の声が漏れてしまっている。
「…いいな。」
羨む声がイザークの耳に響いた。そういえば昨日も織物の話をしたときに目を輝かせていたなとイザークは思い出した。
「商店街でも見て回るか。」
「うん、行きたい!イザークさんは?何か見たいものある?」
「特にない。」
「そうなの?でも良い物が何か見つかるといいね。」
彼女の大切な楽器、ドーラを包んだ布をしっかりと結びなおして身体に巻き付けた。これで大丈夫だとシャディアは意気込む。
「本当に持たなくていいのか?」
「うん、これは自分で持っていたいんだ。ありがとう、イザークさん。」
「おい、ゆっくり歩かないと足に響く。」
「はーい。」
さあ進もうと踏み出した足が速かったのか、すぐにイザークから諫められて気持ちも速度も少し落ち着きを取り戻した。しかしシャディアは早く店が並ぶ通りに行きたくて仕方ないのだ。
「無茶をしたら馬車乗り場まで引き返すぞ。」
「…ゆっくり歩きますー。」
「語尾を伸ばすな。」
本格的に保護者設定をしたのかイザークはより厳しく、それこそ妹にしつけるようにシャディアに物言い始めた。願っていたものと違う方向に行ってしまいそうでシャディアも無駄に明るくすることは控えようと誓う。怒られるのは好きじゃない。
馬車乗り場から近いところに商店街があり、そこは露店の並びのような形をとっていた。何か祭りがあるのだろうか、食品も装飾品も関係なく店が所狭しと並んでいる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ…綺麗…。」
これでもう何軒目だろう。イザークはうんざりしながらもシャディアの傍を離れずに彼女の買い物に付き合っていた。これは彼の意思というよりも半ば強制的なものだ。
「ねえねえ、こっちも見て!」
「分かったから引っ張らなくていい。」
シャディアはイザークの腕の当たりの服を引っ張ったまま離さない。これは割と最初の頃から続いていて、シャディアの言葉への反応が悪かったことからずっと引っ張られて反応を促されているのだ。
いまシャディアが見ているのは生地やリボンや紐を取り扱っている店だった。所狭しと並べられた生地を見て目を輝かせているが、イザークには少しもそれら個々の違いが分からない。
「このレースの生地がすごく綺麗。見て、こう…透かして見ると虹色なの!」
「…え?」
「見て、ほら!」
「…え?」
レースの生地を広げて透かして見せてもイザークの細くなった目が大きくなることもなく、なんならさらに細間って閉じているのではないかと思えるくらいに薄かった。想像以上の響かなさにシャディアは渋い顔をしてイザークを見つめる。
「あはは。まあ大半の男の人はそうだろうね!」
店主の女性が気にすることはないと笑い飛ばしてもイザークはどこか居心地が悪くて顔を逸らしてしまう。
「お嬢さん、気に入ったならこの先の仕立て屋で服にしてもらうといい。ほら、この生地に合わせたら華やかになるだろう?」
「わあ、素敵!でも私たちこの後の馬車で街を出ないといけないの。」
「なんだ、そうなのかい。」
心の底から悲しむシャディアが力なく生地をたたんで元の場所にもどした。本当なら仕立てたいほどに気にいったのだろう。
「じゃあ、同じ生地で仕立てたこのリボンならどうだい?」
そう言って店主が見せたのは一本のリボンだった。端と端には飾りが施されて髪結いに使用しても華やかになる。シャディアの目が再び輝きを取り戻していくのが見えた。
「恋人にねだって贈ってもらいな。」
「え!?」
「こんなに目を輝かせて欲しがってるんだ。着飾ってやりなよ。」
「え!?」
二度目に声を上げたのはイザークの方だった。明らかに自分に向けて言っていることに気付いたイザークはただただ驚いた反応を出してしまったのだ。店主の言葉に驚いたのはイザークだけじゃない、それはシャディアも同じでこれはマズいと慌てて店主に訂正をしようと手を伸ばした。
「あ、あのこの人は…。」
「…そうですね。贈ることにします。」
「…え?」
「あはは!そうこなくっちゃ!」
店主は思い通りに事が運んで満足なのか、イザークの潔さに満足したのか、ご機嫌にリボンを包み始めた。そんな店主に代金を支払いながらまだ軽く言葉を交わしている。イザークは横で狼狽えているシャディアに気付いていない訳ではない。
「い、イザークさん…。」
「はい、お待たせ!良かったね、大事にしてもらいな!」
「ありがとう、ございます…。」
「気を付けてね!いい旅を!」
店主の高らかな声に送られながらその場を後にする二人、シャディアの手の中にはイザークから送ってもらったリボンがあった。
「イザークさん、あの…。」
「気に入らなかったのか?」
「ううん!あ…ありがとう…。」
「そうだな、そっちの言葉の方がいい。」
意外な言葉をイザークから使ったことにシャディアは瞬きを重ねた。そうか、これもイザークの優しさなのだと嬉しくなって自然と頬が緩んでいく。
「ありがとう、イザークさん。」
「ああ。」
「やっぱりイザークさんは誠実で優しいいい男だ。」
「…おだてても何も出ないぞ。」
「あの方を紹介してくれないの?」
「だから、一度もいいなんて言ってないからな!」
「え~~~~~?」
「語尾を伸ばさない。」
照れくさくて思わずふざけてしまった言葉にも返してくれる。そんなイザークの優しさや人柄に触れてシャディアの心はずっとふわふわと幸せの感情の中を漂っていた。
「ああ、雨も降っていたしな。」
「こんなに活気があるのね…。」
こんなに多くの人を見たのは初めてなのだろうか、シャディアの目はキラキラと輝いていた。あの服が綺麗、あんな髪型は初めて見た、周りの服装が気になるようで無意識にか心の声が漏れてしまっている。
「…いいな。」
羨む声がイザークの耳に響いた。そういえば昨日も織物の話をしたときに目を輝かせていたなとイザークは思い出した。
「商店街でも見て回るか。」
「うん、行きたい!イザークさんは?何か見たいものある?」
「特にない。」
「そうなの?でも良い物が何か見つかるといいね。」
彼女の大切な楽器、ドーラを包んだ布をしっかりと結びなおして身体に巻き付けた。これで大丈夫だとシャディアは意気込む。
「本当に持たなくていいのか?」
「うん、これは自分で持っていたいんだ。ありがとう、イザークさん。」
「おい、ゆっくり歩かないと足に響く。」
「はーい。」
さあ進もうと踏み出した足が速かったのか、すぐにイザークから諫められて気持ちも速度も少し落ち着きを取り戻した。しかしシャディアは早く店が並ぶ通りに行きたくて仕方ないのだ。
「無茶をしたら馬車乗り場まで引き返すぞ。」
「…ゆっくり歩きますー。」
「語尾を伸ばすな。」
本格的に保護者設定をしたのかイザークはより厳しく、それこそ妹にしつけるようにシャディアに物言い始めた。願っていたものと違う方向に行ってしまいそうでシャディアも無駄に明るくすることは控えようと誓う。怒られるのは好きじゃない。
馬車乗り場から近いところに商店街があり、そこは露店の並びのような形をとっていた。何か祭りがあるのだろうか、食品も装飾品も関係なく店が所狭しと並んでいる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ…綺麗…。」
これでもう何軒目だろう。イザークはうんざりしながらもシャディアの傍を離れずに彼女の買い物に付き合っていた。これは彼の意思というよりも半ば強制的なものだ。
「ねえねえ、こっちも見て!」
「分かったから引っ張らなくていい。」
シャディアはイザークの腕の当たりの服を引っ張ったまま離さない。これは割と最初の頃から続いていて、シャディアの言葉への反応が悪かったことからずっと引っ張られて反応を促されているのだ。
いまシャディアが見ているのは生地やリボンや紐を取り扱っている店だった。所狭しと並べられた生地を見て目を輝かせているが、イザークには少しもそれら個々の違いが分からない。
「このレースの生地がすごく綺麗。見て、こう…透かして見ると虹色なの!」
「…え?」
「見て、ほら!」
「…え?」
レースの生地を広げて透かして見せてもイザークの細くなった目が大きくなることもなく、なんならさらに細間って閉じているのではないかと思えるくらいに薄かった。想像以上の響かなさにシャディアは渋い顔をしてイザークを見つめる。
「あはは。まあ大半の男の人はそうだろうね!」
店主の女性が気にすることはないと笑い飛ばしてもイザークはどこか居心地が悪くて顔を逸らしてしまう。
「お嬢さん、気に入ったならこの先の仕立て屋で服にしてもらうといい。ほら、この生地に合わせたら華やかになるだろう?」
「わあ、素敵!でも私たちこの後の馬車で街を出ないといけないの。」
「なんだ、そうなのかい。」
心の底から悲しむシャディアが力なく生地をたたんで元の場所にもどした。本当なら仕立てたいほどに気にいったのだろう。
「じゃあ、同じ生地で仕立てたこのリボンならどうだい?」
そう言って店主が見せたのは一本のリボンだった。端と端には飾りが施されて髪結いに使用しても華やかになる。シャディアの目が再び輝きを取り戻していくのが見えた。
「恋人にねだって贈ってもらいな。」
「え!?」
「こんなに目を輝かせて欲しがってるんだ。着飾ってやりなよ。」
「え!?」
二度目に声を上げたのはイザークの方だった。明らかに自分に向けて言っていることに気付いたイザークはただただ驚いた反応を出してしまったのだ。店主の言葉に驚いたのはイザークだけじゃない、それはシャディアも同じでこれはマズいと慌てて店主に訂正をしようと手を伸ばした。
「あ、あのこの人は…。」
「…そうですね。贈ることにします。」
「…え?」
「あはは!そうこなくっちゃ!」
店主は思い通りに事が運んで満足なのか、イザークの潔さに満足したのか、ご機嫌にリボンを包み始めた。そんな店主に代金を支払いながらまだ軽く言葉を交わしている。イザークは横で狼狽えているシャディアに気付いていない訳ではない。
「い、イザークさん…。」
「はい、お待たせ!良かったね、大事にしてもらいな!」
「ありがとう、ございます…。」
「気を付けてね!いい旅を!」
店主の高らかな声に送られながらその場を後にする二人、シャディアの手の中にはイザークから送ってもらったリボンがあった。
「イザークさん、あの…。」
「気に入らなかったのか?」
「ううん!あ…ありがとう…。」
「そうだな、そっちの言葉の方がいい。」
意外な言葉をイザークから使ったことにシャディアは瞬きを重ねた。そうか、これもイザークの優しさなのだと嬉しくなって自然と頬が緩んでいく。
「ありがとう、イザークさん。」
「ああ。」
「やっぱりイザークさんは誠実で優しいいい男だ。」
「…おだてても何も出ないぞ。」
「あの方を紹介してくれないの?」
「だから、一度もいいなんて言ってないからな!」
「え~~~~~?」
「語尾を伸ばさない。」
照れくさくて思わずふざけてしまった言葉にも返してくれる。そんなイザークの優しさや人柄に触れてシャディアの心はずっとふわふわと幸せの感情の中を漂っていた。