「うん!この料理もピリ辛で美味しい!イザークさんに任せて正解だった!」
大きな一口を頬張って今日何度目かの称賛をシャディアは口にした。大皿を何品か頼んで二人で取り分けるようにしたのだが、それが大正解だったらしい。一度に何種類もの料理が楽しめてシャディアは大いに満足していた。
「…それはどうも。」
「この先ってもう王都しかないんでしょ?何となく他のお客さんの服装がきらびやかになっている気がする。」
「まだ少し距離はあるけど…この街は王都付近では割と大きな街ではある。だからだろう。」
「ふーん。やっぱお城に近い方がお偉いさんとかお金持ちが住んでいる率も高くなるのかな。」
「さあ。」
適当なイザークの返事を聞いても何も思わないのかシャディアは美味しそうにパクパクと目の前の料理を口に運び続ける。満足の要因にほんの少しずつイザークの言葉が砕けてきていることも入っているという事をイザークは知らなかった。
「イザークさんは濃い目の味が好き?」
「あ、辛すぎたか?」
「ううん。美味しい!疲れているときは辛い味が食べたくなるの。」
「ああ、それは分かる。」
初めてかもしれない穏やかな共感にシャディアは嬉しくてはにかむ。本当の事を言えば全体的に濃い味付けばかりで少し口直しをしたかったが、そんな事も気にならなくなった。イザークはお酒を頼んでいる、それは少し意外だった。
「お酒も好きなの?」
「嗜む程度に。本来は任務中の飲酒は避けたいが、酒に慣れる為必ず一杯は飲むようにしているだけだ。」
「慣れる為?」
「酒を飲まされた隙に何かあってはいけないからな。何に対しても強くて損はない。」
「へえ…そんな考えがあるのね…。」
それでも酒が入っているせいか少し饒舌な気がする。
「ん?任務中は避けたいって…今は任務中じゃないんでしょ?」
「…似たようなものだろ。」
素朴な疑問が浮かんで問いかけてみれば、イザークは不本意と言わんばかりに皿にあった一口分を食べた。それ以上は語ろうとしない姿勢だが、シャディアにはイザークが何について話したのか分かってしまったのだ。まるで任務の様に責任をもって自分を王都まで送ろうとしてくれているのだと感じられて嬉しくなる。
「手持ちのお金で足りるかな。」
照れ隠しのようなものだったが実際、騎士を秘密裏に雇う報酬は高額だろうと覚悟はしていた。王都では質屋に行って売れるものはすべて手放してお金を作ろうと覚悟を決める。
「最悪出世払いにさせてね。私きっとお金持ちの誰かに気に入られて稼いでみせるから。」
ちゃんと払い終わるまで居場所を知らせると続け、シャディアもまた一口を食事を進めた。
「…少し聞いてもいいか?」
「なに?」
「どうして位が高い人たちを求める?」
イザークの問いにシャディアは瞬きを重ねることで反応を示す。その仕草はその先に続く言葉を待っているようにも見えた。
「城下や他の街や村でも音楽に触れている人たちは沢山いる筈だ。」
「うーん、そうね。確かに位が高い人だけが耳が肥えてるって訳じゃないんだろうけど、でもやっぱり多種の音色や楽器の種類を目や耳にしているのは…そういう人たちだと思うの。」
言葉を進めるにつれてシャディアの声は次第に温度を下げていった。それは少し強引な、それでいて突き放すように刺していく鋭さも含んだ言葉だとイザークは構える。ここまででこんな声を使うシャディアに触れたのは初めてだった。声の温度と同時に瞳に宿すものも冷たく染まった気がしてイザークは目を細めた。
「そういう人たちにしか分からない音楽っていうのもあるだろうしね。執着だってきっと…。」
少し掠れたような声はイザークに聞かせる為に出したものではないと瞬時に悟った。彼女の視線はわずかに下がりどこか遠くに思いを馳せているようだ。そうだと思えばすぐに気持ちを切り替えたようで次に視線を上げた時には今まで通りのシャディアがそこにいた。
「あとはお捻り?とか嫁にこないか?とかね。副産物も多そうだし。」
「…玉の輿、というやつか。」
「あはは、あれは半分冗談なんだけどね。別にこの腕を買ってくれるのならそれでいいの。お金に困ったらその辺の後腐れ無さそうなお兄さん捕まえればなんとかなるだろうし。」
「ぶっ!!」
気付かれないようにする為か少しずつ声や態度を明るく変えていくシャディアに違和感を覚えたが、その先の爆弾発言に一気に吹き飛んだ。吹き飛んだのは思考だけでなく喉に流し込もうとしていた酒もだった。
「大丈夫?」
「げほっげほっ!…っな、何を言い出すかと思えば。本気か?」
「嘘言ってるように見える?結構まじめなんだけど。お金が無くなりかけた時は何度か過ったよ。」
何度も過るほど金に困っていたのならなぜ単価が高そうな人間を選んで護衛を頼もうとしたのだと突っ込んでやりたい。しかしそれしか方法がなかったと今回のことは叱りにくい状況にイザークは唸った。
「…それでも若い女性が軽々しく口にしていい話じゃない気がするが。」
「大丈夫、イザークさんを誘わないから安心して。」
「その言われ方も複雑だな。」
「え?あ、違うよ?好みじゃないとかじゃなくて、イザークさんはそういうこと出来ないでしょ。」
大きな一口を頬張って今日何度目かの称賛をシャディアは口にした。大皿を何品か頼んで二人で取り分けるようにしたのだが、それが大正解だったらしい。一度に何種類もの料理が楽しめてシャディアは大いに満足していた。
「…それはどうも。」
「この先ってもう王都しかないんでしょ?何となく他のお客さんの服装がきらびやかになっている気がする。」
「まだ少し距離はあるけど…この街は王都付近では割と大きな街ではある。だからだろう。」
「ふーん。やっぱお城に近い方がお偉いさんとかお金持ちが住んでいる率も高くなるのかな。」
「さあ。」
適当なイザークの返事を聞いても何も思わないのかシャディアは美味しそうにパクパクと目の前の料理を口に運び続ける。満足の要因にほんの少しずつイザークの言葉が砕けてきていることも入っているという事をイザークは知らなかった。
「イザークさんは濃い目の味が好き?」
「あ、辛すぎたか?」
「ううん。美味しい!疲れているときは辛い味が食べたくなるの。」
「ああ、それは分かる。」
初めてかもしれない穏やかな共感にシャディアは嬉しくてはにかむ。本当の事を言えば全体的に濃い味付けばかりで少し口直しをしたかったが、そんな事も気にならなくなった。イザークはお酒を頼んでいる、それは少し意外だった。
「お酒も好きなの?」
「嗜む程度に。本来は任務中の飲酒は避けたいが、酒に慣れる為必ず一杯は飲むようにしているだけだ。」
「慣れる為?」
「酒を飲まされた隙に何かあってはいけないからな。何に対しても強くて損はない。」
「へえ…そんな考えがあるのね…。」
それでも酒が入っているせいか少し饒舌な気がする。
「ん?任務中は避けたいって…今は任務中じゃないんでしょ?」
「…似たようなものだろ。」
素朴な疑問が浮かんで問いかけてみれば、イザークは不本意と言わんばかりに皿にあった一口分を食べた。それ以上は語ろうとしない姿勢だが、シャディアにはイザークが何について話したのか分かってしまったのだ。まるで任務の様に責任をもって自分を王都まで送ろうとしてくれているのだと感じられて嬉しくなる。
「手持ちのお金で足りるかな。」
照れ隠しのようなものだったが実際、騎士を秘密裏に雇う報酬は高額だろうと覚悟はしていた。王都では質屋に行って売れるものはすべて手放してお金を作ろうと覚悟を決める。
「最悪出世払いにさせてね。私きっとお金持ちの誰かに気に入られて稼いでみせるから。」
ちゃんと払い終わるまで居場所を知らせると続け、シャディアもまた一口を食事を進めた。
「…少し聞いてもいいか?」
「なに?」
「どうして位が高い人たちを求める?」
イザークの問いにシャディアは瞬きを重ねることで反応を示す。その仕草はその先に続く言葉を待っているようにも見えた。
「城下や他の街や村でも音楽に触れている人たちは沢山いる筈だ。」
「うーん、そうね。確かに位が高い人だけが耳が肥えてるって訳じゃないんだろうけど、でもやっぱり多種の音色や楽器の種類を目や耳にしているのは…そういう人たちだと思うの。」
言葉を進めるにつれてシャディアの声は次第に温度を下げていった。それは少し強引な、それでいて突き放すように刺していく鋭さも含んだ言葉だとイザークは構える。ここまででこんな声を使うシャディアに触れたのは初めてだった。声の温度と同時に瞳に宿すものも冷たく染まった気がしてイザークは目を細めた。
「そういう人たちにしか分からない音楽っていうのもあるだろうしね。執着だってきっと…。」
少し掠れたような声はイザークに聞かせる為に出したものではないと瞬時に悟った。彼女の視線はわずかに下がりどこか遠くに思いを馳せているようだ。そうだと思えばすぐに気持ちを切り替えたようで次に視線を上げた時には今まで通りのシャディアがそこにいた。
「あとはお捻り?とか嫁にこないか?とかね。副産物も多そうだし。」
「…玉の輿、というやつか。」
「あはは、あれは半分冗談なんだけどね。別にこの腕を買ってくれるのならそれでいいの。お金に困ったらその辺の後腐れ無さそうなお兄さん捕まえればなんとかなるだろうし。」
「ぶっ!!」
気付かれないようにする為か少しずつ声や態度を明るく変えていくシャディアに違和感を覚えたが、その先の爆弾発言に一気に吹き飛んだ。吹き飛んだのは思考だけでなく喉に流し込もうとしていた酒もだった。
「大丈夫?」
「げほっげほっ!…っな、何を言い出すかと思えば。本気か?」
「嘘言ってるように見える?結構まじめなんだけど。お金が無くなりかけた時は何度か過ったよ。」
何度も過るほど金に困っていたのならなぜ単価が高そうな人間を選んで護衛を頼もうとしたのだと突っ込んでやりたい。しかしそれしか方法がなかったと今回のことは叱りにくい状況にイザークは唸った。
「…それでも若い女性が軽々しく口にしていい話じゃない気がするが。」
「大丈夫、イザークさんを誘わないから安心して。」
「その言われ方も複雑だな。」
「え?あ、違うよ?好みじゃないとかじゃなくて、イザークさんはそういうこと出来ないでしょ。」