よくよく見れば笑みを浮かべることが少ないものの、わずかに崩れる表情がいいものだなとシャディアはイザークの横顔を盗み見しながら考えていた。しかしふとある疑問が浮かびシャディアはイザークの顔をじっと見つめた。整った顔立ち、それは分かってはいたが改めて思う事がある。
「…イザークさんの方が私より年上よね…?」
「まあ…おそらくは。」
「ねえ、その敬語やめてくれない?年上からそんな風に言われるのも何だか変な感じがする。」
覗きこむように窺えばイザークの表情が戸惑いと苦々しいものに変わっていく様が見えた。これは心底面倒だと思っているなとシャディアも察することになる。
「…距離感というものを察して欲しかったんだが。」
「え~~~~~~~?むだ~~~~~。」
「語尾を伸ばさない。」
低く落ち着いた声に諭されてもシャディアは納得がいかない。これ以上踏み込むなとでも言いたいのか、それにしてはイザークが親切にしてくれている節も多々あるのにと頬を膨らませた。
そうこうしている間に馬車は目的地の街に着いたようで、お菓子をくれたおじさんを含め乗客は次々に馬車から降りていく。イザークは立ち上がる時も馬車から降りる時も手を差し出してシャディアを自然と支えてくれていた。
「距離感って、こうやって手を握ったり寄り添う近さで座る仲なのに。」
「補助や馬車の席は判断材料にならない。」
「抱き寄せてもらったのも?」
「だっ!!!!???」
あまりの衝撃でどこから出たのか分からない声は喉を圧迫して息が詰まったようだ。喉を押さえながら肩で息をするイザークの背中をさすってやる。
「大丈夫?」
「ちょ…そういう誤解を受けそうな言葉は避けていただきたい。」
顔を赤らめ涙目でシャディアを睨むその姿は、精悍な顔つきで周囲を警戒するものとは異なり愛嬌があった。ああ、やはりなんて可愛らしいのだろう。
「あれは馬車の中の事故でしょう。」
「でも私の腰をこう…。」
「説明は不要です。」
顔を真っ赤にして自分の発言に反応するイザークが可愛く思えてときめいた。
「イザークさんって…。」
そうなのね、とシャディアは勝手に納得して何度も頷く。その反応はいつも見る他の誰かと重なり、シャディアが何を考えているのかイザークは察しがついたようだ。
「何ですか。」
「いいえ。何も。」
ドスの効いた声は笑顔でさらりとかわしてシャディアは手を差しだす。
「旅は道連れ世は情け。仲よくしましょ。」
歌うように出された言葉はみるみるイザークの顔色を悪くさせた。
「お先真っ暗だ…。」
「楽しい歌でも歌いましょうか。」
「そういう問題じゃない。」
不貞腐れながらもちゃんと言葉を返してくれるイザークに顔がゆるんで仕方がない。何となくイザークは最後まで付き合ってくれそうな予感がしてシャディアは胸があたたかくなった。
意外にも待ち時間の短かった乗り換えはほぼ貸し切りのようなものだった。御者に断りを入れて馬を繋がせてもらうと数組しかいない客車へイザークが乗り込んでくる。人が少なくてもシャディアの隣に座るイザークに思わず頬が緩んだ。笑顔で自分を見つめるシャディアに気付いたイザークは不思議そうに眉を上げた。
「何か?」
「ううん、この馬車を降りたら今日の目的地よね?」
「ええ。」
質問に答えるなりイザークはすぐ足の容態を尋ねてきた。問題ないと言えば再び納得の声と共に頷いて胸の前で腕を組む。どうやらこれはイザークのお決まりの姿勢のようだ。
「イザークさん、手遊びでもする?」
「手遊び?」
「子供の頃よくやったの。イザークさん勝負勝負!」
何だかんだと言いながらもイザークはシャディアを無視することなく付き合って、他愛のない話をしながら二人は馬車に揺られ続けた。次の街に到着したのは夜も近い夕方の頃だった。
「…イザークさんの方が私より年上よね…?」
「まあ…おそらくは。」
「ねえ、その敬語やめてくれない?年上からそんな風に言われるのも何だか変な感じがする。」
覗きこむように窺えばイザークの表情が戸惑いと苦々しいものに変わっていく様が見えた。これは心底面倒だと思っているなとシャディアも察することになる。
「…距離感というものを察して欲しかったんだが。」
「え~~~~~~~?むだ~~~~~。」
「語尾を伸ばさない。」
低く落ち着いた声に諭されてもシャディアは納得がいかない。これ以上踏み込むなとでも言いたいのか、それにしてはイザークが親切にしてくれている節も多々あるのにと頬を膨らませた。
そうこうしている間に馬車は目的地の街に着いたようで、お菓子をくれたおじさんを含め乗客は次々に馬車から降りていく。イザークは立ち上がる時も馬車から降りる時も手を差し出してシャディアを自然と支えてくれていた。
「距離感って、こうやって手を握ったり寄り添う近さで座る仲なのに。」
「補助や馬車の席は判断材料にならない。」
「抱き寄せてもらったのも?」
「だっ!!!!???」
あまりの衝撃でどこから出たのか分からない声は喉を圧迫して息が詰まったようだ。喉を押さえながら肩で息をするイザークの背中をさすってやる。
「大丈夫?」
「ちょ…そういう誤解を受けそうな言葉は避けていただきたい。」
顔を赤らめ涙目でシャディアを睨むその姿は、精悍な顔つきで周囲を警戒するものとは異なり愛嬌があった。ああ、やはりなんて可愛らしいのだろう。
「あれは馬車の中の事故でしょう。」
「でも私の腰をこう…。」
「説明は不要です。」
顔を真っ赤にして自分の発言に反応するイザークが可愛く思えてときめいた。
「イザークさんって…。」
そうなのね、とシャディアは勝手に納得して何度も頷く。その反応はいつも見る他の誰かと重なり、シャディアが何を考えているのかイザークは察しがついたようだ。
「何ですか。」
「いいえ。何も。」
ドスの効いた声は笑顔でさらりとかわしてシャディアは手を差しだす。
「旅は道連れ世は情け。仲よくしましょ。」
歌うように出された言葉はみるみるイザークの顔色を悪くさせた。
「お先真っ暗だ…。」
「楽しい歌でも歌いましょうか。」
「そういう問題じゃない。」
不貞腐れながらもちゃんと言葉を返してくれるイザークに顔がゆるんで仕方がない。何となくイザークは最後まで付き合ってくれそうな予感がしてシャディアは胸があたたかくなった。
意外にも待ち時間の短かった乗り換えはほぼ貸し切りのようなものだった。御者に断りを入れて馬を繋がせてもらうと数組しかいない客車へイザークが乗り込んでくる。人が少なくてもシャディアの隣に座るイザークに思わず頬が緩んだ。笑顔で自分を見つめるシャディアに気付いたイザークは不思議そうに眉を上げた。
「何か?」
「ううん、この馬車を降りたら今日の目的地よね?」
「ええ。」
質問に答えるなりイザークはすぐ足の容態を尋ねてきた。問題ないと言えば再び納得の声と共に頷いて胸の前で腕を組む。どうやらこれはイザークのお決まりの姿勢のようだ。
「イザークさん、手遊びでもする?」
「手遊び?」
「子供の頃よくやったの。イザークさん勝負勝負!」
何だかんだと言いながらもイザークはシャディアを無視することなく付き合って、他愛のない話をしながら二人は馬車に揺られ続けた。次の街に到着したのは夜も近い夕方の頃だった。