—江田 桜―

病室の前には、桜ちゃんの名前が書かれていた。
個人用・・・。

ノックを3回して、ガラガラっと、ドアを開ける。

「あ、美織!久しぶり」

「うん、久しぶり・・・起きてくれてありがとね」

「うん・・・柚の分も生きるよ!柚とは、天国でまた会うよん」

「そっか、ソレいいねっ」

・・・やっぱり、少しおかしいな。
親友が死んだのに、このテンションはない。
・・・ということは、タイミングを見計らって私に『あの』話をふるつもりだろう。

今の桜ちゃんは、私が重田を失ったときと同じくらいの悲しさがあるはず。
それでも、この明るさ・・・。
不自然。

演技・・・かな。

「美織?座らない?」

「あ!ごめん!なんか、良い匂いだなって」

「え?消毒のにおいが?」

「ちょっと好きなんだよね~・・・苦手な人もいると思うけどね。じゃあ、座るー」

私は、よくドラマで見るような光景を自分でいている気分でいた。

さぁ、いつくる?
携帯のデータはすべて消した。
犠牲者には悪いけど、私も生きるとことを諦めたくないんだ。

「・・・はは、美織は正直だね」

「何が?」

「気づいてないの?顔に出てるよ?そんな、難しい顔してさ」

「・・・」

バレたって感じ?
いや、それはないかな。

「変わったねー・・・美織・・・。」

「私が?そう・・・かな?」

「うん、前はこんなに、考えずにすぐ反射みたいに返してたよ」

・・・自分でもよく考えるようになったとは思ってるよ。

「あと、我慢するようになったね」

「?」

「言いたいこと。今も何か考えたよね?なんか、柚に似てる」

「そ、そう?」

「じゃあ、美織のお待ちかねの話でもする?」

「え?」

「え?じゃないよね。わかってるよね」

1つトーンを落とした桜ちゃんの声は怖かった。
もう逃げられない、ごまかせないと確信した。

「わかってる、じゃあ・・・話そうかな」