翠の勤めるこの図書館は、建物が恐ろしく古い。本のどことなく黴たような匂いが漂う。床は学校の教室のように板張りで、カウンターも寄りかかるとギシギシ音がする。今時珍しいアナログ図書館なので、図書カードの束がカウンターの内側を占領していた。節電の目標を掲げているので、日中ほとんど明かりをつけない。それでも、吹き抜けのエントランスの上部に、明かり取りの窓があるので、問題はなかった。

一日で、真夏の太陽の光が、時間とともにゆっくりと、壁から床へと降りていく。埃がうねるように光の中を舞っていて。

どことなく神聖で、静謐な場所。

でも、今はいたるところに、小さなカメラが設置してありますけれど。

翠は、天井付近、埋め込み式クーラーの方をちらっと見ると、眉間にシワを寄せた。颯太の視線を気にしながら、朝のルーチンワークを行う。夜間返却ボックスから本を取り出し、カードと照合して、元の棚に戻すのだ。

もともと、翠は理系女子だ。図書館司書の資格を取ろうと考えたことなど、一度もなかった。ずっと研究職で生きていくのだと思っていたので、今自分がこの仕事をしているのが、未だに信じられない。

でも、やってみると意外に心地いい。あるべきところに、あるべきものがある、快感。

私ってば、分類好きじゃん。

翠はウキウキしながら、開館前の作業に熱中しはじめた。