ああ、失敗した。
翠は図書館の席で、頭を抱えて唸った。
閉館前のざわつく館内。夏の夕方は、明るい。遊び足りない子供達が、絨毯を引いたキッズスペースに座り込み、公園に行く相談をしている。
「元気ね〜」
のぞみが子供達を眺め、けだるそうに言った。
「う……ん」
気の無い返事をした翠を見て、のぞみが首をかしげる。
「どうしたの?」
「いえ……別に……」
翠は首を振った。
アンダー丸刈りは変態だって、夫に叫んで笑われました。
そんなこと言ったら、自分が変態扱いされちゃう。
のぞみはちょっと口を尖らせて、翠の方へ身体を乗り出した。
「山崎さんってさ、ガードが固いよね」
「……そう……かな?」
翠は痛いところを突かれて、苦笑いしか出てこない。
「寄るなっていうオーラがあるかと思えば、話すとそうでもないし。ちょっと不思議な感じ」
「人付き合いが苦手なだけよ」
翠は言った。
本当は、すっごく社交的だった。友達だっていっぱいいたし、パーティなんかに行くのも大好き。
でも今は、それができない。誰と話をしていても、嘘の自分を通さなくちゃいけない。仮の設定は教え込まれたけれど、それを堂々と人に話せるほど図太くはなく、自然と他人と壁を作るようになった。
早く終わらせたい、こんな生活。