『だから、目を開けて』
山崎 翠は目を開けた。
天井にカーテンの隙間が作る、光のライン。窓の外からは、すでに蝉が鳴き出している。
翠は重い身体を、なんとか起こした。
「あっつい」
翠はロングの髪をかきあげる。広めの白い額に汗が光った。
六畳ほどのフローリングの部屋に、シングルベッド。
翠は、オレンジ色のカーテンを開けると、窓を勢いよく開ける。
ビーッ!!
突然、大音量の警報音が鳴り出して、翠は「しまった」と声に出した。
バターンッ!!
扉が勢いよく開くと、山崎 颯太が立っていた。
白いTシャツにグレーのジャージ。背は高く、黒髪は軽くウェーブしている。日本人といえば日本人だが、どことなくヨーロッパあたりの血が入っていそうな、瞳の色。
「また、開けたのか?」
「……はい」
「お前、学習能力がないんだな」
「……いちいち、失礼ね」
「だって、本当のことだろ?」
颯太は翠を鼻で笑うと、ポケットからスマホを取り出す。いくつか操作をすると、警報音はピタッと鳴り止んだ。
「気をつけろよ。こんなに毎朝鳴らされちゃ、近所も迷惑だ」
颯太はそう言うと、リビングへと戻っていく。
「はいはい、すいませんでした」
翠はふてくされて小さく返事をした。扉を勢いよく締めてから、声に出さず「ちくしょー」と叫んだ。
普通の賃貸住宅に不似合いな、厳重な警報システム。解除せずに開けると、けたたましいアラームが鳴り響く。翠がアラームを鳴らしたもは、もうこれで三回目だった。
この暮らしに、まだ慣れないんだもの。
翠は口を尖らせた。