秋。
行き交う人々の大半は、マフラーを巻き始めている。
真っ青な空の下、銀杏並木の下に点々と置かれている鉄製のベンチに座り、あすかは暖かなコーヒーを一口のんだ。
栄養失調と脱水はあったが、たいした怪我もなく無事だった。
あすかは、事情聴取を終えると、両親を日本から呼んでもらった。しばらく音信不通だった娘から聞いた事件に、両親は震えて、それから安堵の涙を流した。
今は両親とともに、都市部のホテルに滞在しているが、明後日にはもう、両親は帰国する。当然のことながら、あすかを日本へ連れて帰りたがっていた。
あすかは腕時計を見て、それから寒さに震えてマフラーを口元まで引っ張り上げた。
ジェイとは、何度か顔を合わせた。病院で。それからFBI支局で。でも、両親と一緒にいる時間を大切にして、ジェイと二人きりで過ごすことはなかった。
今日は、事件以来、はじめて二人きりで会う日。
あすかは緊張でお腹が痛くなってきた。
全部が終わったら、あの返事をしなくちゃ。
あすかの頭は、そのことばかりで占められている。
どうやって、言ったらいいかな。なんか『今さら』感が、否めないし……。
あすかがコーヒーを両手で包むように持ち、もんもんと考えていると「あすか」と声がかかった。