最終日。

今日、私は、死ぬかもしれない。いや、『かもしれない』なんていう、薄い可能性をわざわざ付け加える必要などない。
今日、私は殺されるのだ。

けれど、最後に一矢報いたい。『全部を終わらせる』と言った、あの人の強い意志を引き継いで。

使われていない病院の暗い非常階段を、男たちに両脇を捕まえられて降りていく。まるで入院患者が着るような、コットンのゆるいワンピースに、かかとを踏んで履いているスニーカー。両足がうまく動かない。先ほど、強い薬を打たれたからだ。

「逃げられると困るからね」
女はそう言って、あすかの細くなった腕に、注射針を刺した。

男たちが病院の玄関を通ると、枯れた葉の香りと冷たい空気が、肌の出ている部分を撫でる。ぼんやりとした視界のなかに、たくさんの星が見えた。東京では見ることのできない、今にも降ってきそうな、煌めき。

夜に溶けてしまいそうな、真っ黒なバンの後ろに入れられた。シートに身体を預けると、自然とまぶたがおりてくる。

今日、私は死ぬ。
でも、こんなにも、穏やか。
だって、あの人に会えるもの。

エンジンがかかると、細かな振動が、あすかを深い深い意識の底へと連れて行った。

彷徨う、頭と心。

『ねえ、なんでいっつも、そんな意地悪なことばっかりするの?』
『あすかが怒ると、顔が真っ赤になって、ほっぺが膨らむ。それが見たいんだよ』
『変なの』
『そうか? お前がかわいいんだ。いいじゃないか』