残り二日。
あすかは、白衣に手を通す。
記憶は失っても、白衣を着るとしっくりと身体に馴染む。自分は確かに、この職についていたのだと、思った。
自分が殺されても構わない。もともと、薬をつくるつもりなんて、これっぽっちもないのだ。でも、颯太を、同僚を、無残にも殺したこいつらを、野放しになんかしない。
必ず、罪を償わせる。
「一度頭を殴ってやろうか。何か思い出せるかもしれないな」
見張りの男が、あすかをからかった。
何人かの男達が、交代であすかを見張る。その中でもこいつが、一番気分が悪い。スーツにネクタイと、身なりはちゃんとしているが、おぞましい。舐めるような目で、あすかを眺める。何を考えているのか想像すると、吐き気がした。
あすかは実験台のまえに立ち、資料を広げた。
実験データが改ざんされているなら、どうして改ざんされたのかを探ろう。もう一度、同一の条件で実験するのだ。
大学で得た知識だけではダメだ。あすかの記憶の底に眠っている知性を呼び起こそう。経験しているはずの、あらゆる実験、データ。手順を追えば、必ず思い出せる。
コンピュータを立ち上げ、記録を繰り返す。
あすかは、真剣に考えた。
やっぱり、おかしい。
データは改ざんされている。でもなぜ? 誤魔化す必要があったのは、何?
「頭のいい女なんて、胸糞悪いだけだ」
男が言う。
「女は、黙って、男に足を開いてればいい」
あすかは男を振り返った。
「静かにしてください。邪魔です」