あの事故以来、俺は自分の母親のお兄さんとして、育てられてきた。
お母さんがいるのに、いないも同然。
甘えることも、甘やかされることもない。
だから俺は、心に決めていたんだ。
「俺は絶対に、恋なんてしない。」って。
恋なんてものは、ろくなものじゃない。
相手を傷つけることもあれば、自分が傷つくことだってある。
ましてや俺のように普通ではない者としては、なおさらだ。
それなのに...
「...おにい、ちゃん?」
「あ、あぁ、ごめん。
おにいちゃん、もうそろそろ行かないと。
また今度、いっぱい話そうね。」
「うん!」
「元気でね、ニーナちゃん。」
「うんっ、ありがと!
バイバーイ!!」
プツッと切れた音のあと、俺はそっと、受話器を置いた。
思い出の中のお母さんの優しい笑顔が、俺の脳によみがえった。
ずっとこらえていたものが、静かに一粒だけ溢れ出してしまった。
「...俺、恋しちゃったよ。お母さん。」