(元気にしてるかな...)
しばらく待っていると、小さな足音が走ってくるのが聞こえた。
「もしもーし、おにいちゃん?」
電話の先に聞こえたのは、女の子の声。
「うん、元気だよ。
ニーナちゃんも、元気だった?」
「うんっ、もちろん!!」
彼女の元気な声を聞けば聞くほど、俺の胸はじーんと痛む。
「ニーナね、昨日...」
そういって楽しそうに話しだす彼女。
(よかった。
お母さん、元気そうだ。)
電話の向こうにいる、小さな女の子。
彼女が俺のお母さんだなんて、きっと誰も信じないだろう。
(俺だって...信じたくねぇよ。)
「...おにいちゃん、聞いてる~?」
「えっ。
あぁ、聞いてるよ。」
「ほんとぉ~?
じゃあ、それからね...」
俺はギュッと受話器を握り締めた。
目の奥の熱いなにかをこらえるために、唇を強くかみしめる。
(だから俺は、
...恋なんてしたくなかったんだ。)