(恋って、大変...)
私がそう思ったのも、無理はない。
――― 授業中。
「あっ。」
そういった冬真君は、チッと小さく舌打ちをした。
「日葵、消しゴム貸して。」
「けっ、消しゴム?!
どっ、どうぞ、どうぞ!!」
なにを言っても不審な反応をする私に、さすがの冬真君も不機嫌な顔をする。
「あのさぁ...
お前、朝からなんなの?
俺が話しかけるたびに、変な反応されてんだけど。」
(そういわれても...)
さすがに「キスしたからじゃん!!」だなんて、言えるわけがない。
答えに困った私は、ただただ黙ってうつむいた。
「なるほど。」
そういった冬真君は、急に立ち上がる。
「すいません、先生。
なんだか篠原さんが具合悪いみたいなんで、僕、保健室に連れていきます。」
「...えっ?」
「あぁ、いってらっしゃい。」
驚く私を気にもせず、先生は背を向けて黒板になにかを書き続けながら答えた。
「篠原さん、大丈夫?」
そういって心配そうな表情をする冬真君は、半ば無理やり私を椅子から立たせる。
「ほら、行こう。」
私を支えるかのようにして、教室から私を連れ出そうとする冬真君。
「えっ、ちょっとなっ...」
抵抗もできないまま、私は廊下に出てきてしまった。
静かに閉ざされる教室の扉。