ですが、妖精……?
私はこの状況が飲み込めず、ひどく混乱してしまいます。
私を見つめる、キラキラとした妖精さんの瞳が、やけに私の心を揺さぶります。

この子が妖精とおっしゃるのなら、そうであることは間違いないでしょう。
それに言葉、通じるようですね……。
しかし、私は変な夢でも見ているのでしょうか。この世界に妖精がいるだなんて、そう簡単に信じられるわけがありません。
それでもなぜか、この妖精さんの姿を見ていると、信じられる気がしてなりません。
一体どういうことなのでしょうか。

しばらく私たちは、お互いの目をじっと見つめ合っていました。
何分か経ち、最初に口を開いたのは、妖精さんでした。
「あんたはだれ?}
直後私は、硬直しました。
堂々たる態度、思わず顔がほころんでしまう愛らしい見た目とは、似ても似つきません。

それは別としても、どのようにお答えしたら良いのでしょう。
考えた末、
「私は人間です。麻宮、と申します。
と、いたって普通の返答を致しました。

「ふーん。あたしはローナ、よろしくね!」
真顔でおっしゃったことが、空恐ろしくてしかたありません。
「よろしく、とは?」
まだ訳もわからないまま、ため息まじりでたずねます。
「あたし、お願いごとがあって、ここに来たんだ」

「お願いごと、ですか……」
私はゆっくりと、ローナさんに繰り返します。
「うん……実は今、あたしの住む妖精の国が、すっごくピンチなんだよね……」
先ほどの元気な様子とは打って変わり、ローナさんはしょんぼりとうなだれています。

「それは、大変ですね……。ちなみに、妖精の国、とは、どのようなところなのですか?」
まずは今気になることをたずねてみます。
「うーん、それはまた明日話すよ」
先延ばしされてしまいました。
って、「また明日」!?明日も来られるのでしょうか。

「あたし、もう帰らなきゃならないの。9時までに戻らないと、父上に叱られてしまうから」
……そうですか。
「ですが、もうあと5分とてありませんよ。大丈夫なのですか?」

気がつくと、ローナさんと出会ってから、30分もの時間が経っています。
「大丈夫!1分もかからない。今から出発すれば、余裕だよ」
それは、良かったですね。
さらに、いつの間にか、ローナさんの様子はもとの無邪気な様子に戻っています。
おそらく、この世界と妖精の国とをつなぐ、扉か何かがどこかにあるのでしょう。

「明日は、今日と同じくらいの時間に来るよ。じゃあ、またね!」
返事をする間もなく、ローナさんは、かなた向こうの妖精の国を目指して、ピューと飛んで行きました。