そんな風に考えると自分の気持ちが分からなくなって。


皆と別れた後
一人で携帯を開き一ノ瀬さんの番号を眺めていた。



もちろん電話なんて掛けた事ないからこれが初めて。



春の爽やかな風は私に迷いと共に勇気をくれた。






かけてみたっていいよね?


ドキドキしてしょうがない胸を抱えながら


そっとタップした後に聞こえる電子音が、今日はどうしてこんなに大きく聞こえるんだろう。




「…はい。」


しばらくして聞こえてきたのは、
彼の少し低めの声。




『…あっ、こんにちは。』





そんな言葉しか返せない自分が情けなくて、思わず下を向いて唇を噛んだ。




「…なんだよ。
もう10時だぞ。つーかお前から電話なんて珍しくね?」



明らかに不機嫌な彼の声。


やっぱりこんな夜に電話なんて迷惑だったかな。



何か会話を続けないと切られちゃいそうな勢いだった為、
急いで電話越しの彼に聞いてみた。



『…今何してるんですか?』


少しの間をおいて聞こえてきた言葉。




「…風呂出てビール飲んでるとこ。」


『へぇ、美味しいですか?』


「…どーでも良くね?」


折角の電話もこのままだと失敗に終わりそうで、あたふたしてると聞こえてくる彼の笑い声。


「何がしたかったんだよ(笑)」



そっと春の空を見上げてね、
絶対に数時間前までは言えなかった言葉を言ってみた。



『…声が聞きたくて。』



言い終わった後に恥ずかしくなって
そっとまた唇を噛むと




ふっという彼の笑い声の後に
聞こえてきた言葉。






「…俺も。
…とか言う訳ねぇだろ。」


分かりやすすぎる彼の照れ方に笑っていると、


「…バカはさっさと寝ろ。」



そう言って電話をきられた。



最悪の終わり方のはずなのに
なんだか凄く嬉しくて。




春の空はやっぱり綺麗です。