連れてこられたのは、テーブルと机のある部屋。
『スタッフルーム』のプレートが、はってあった。
「入れ!」
「み、瑞希お兄ちゃん・・・」
乱暴に開いたドアに、引っ張り込まれる。
「ご、ごめんなさーい!」
ずっと怒ったままの彼に謝る。
「うるせぇ!ギャーギャー騒ぐな!静かにしろ!」
返ってきた言葉はとってもビター。
辛口コメント。
〔★凛の謝罪コマンド、瑞希に効果ナシ★〕
あれから、ごめんなさい、ごめんなさいと謝るけど、瑞希お兄ちゃんは変わらない。
変化しない。
怖い顔のままである。
「座れ!」
手を離され、ニラまれながら言われた。
「あ・・・・」
「座れ!聞えてるだろう!?」
「うっ・・・・」
今の時点で私、半分泣いてます。
助けただけなのに。
瑞希お兄ちゃんをストーカーから守っただけなのに。
(なんで怒るの・・・?)
部屋に入ってから、動けない。
「凛!!」
ドンっ!!
瑞希お兄ちゃんの手がテーブルを叩く。
「あっ・・・・!?」
ビクッとして、思わず、後退する。
「コラ、逃げるな!」
それでシャーと威嚇する猫みたいに怒鳴る瑞希お兄ちゃん。
伸びてきた手から逃げるために一歩下がる。
「ご、ごめんなさーい!」
「待てよ!おい、凛っ!」
また一歩下がる。
「凛!」
「うええ~!ごめんなさい!ごめんなさい!」
一歩、二歩、三歩と下がっていく。
「――――――――――――――――――だから、待てって!!」
ドン。
「あ・・・」
今度のドンは、瑞希お兄ちゃんじゃない。
(私だ・・・)
私の背中が壁にぶつかった音=もう逃げられない、という構図が浮かぶ。
「もう逃げないよな?」
ドンっ!!
「あう!?」
叩かれた。
叩かれたけど、叩かれてない。
「か・・・かべ・・・?」
叩かれたのは壁。
音を出した瑞希お兄ちゃんの手が、私の真横の壁にあった。
「逃げんなよ・・・!」
「・・・はい。」
言われなくても、逃げられない姿勢。
世間でいうところの、噂の壁ドン。
大好きな顔がドアップで、思ったより近い。
いつもなら、目をいっぱいに開くけど見れない。
怖くて怖くて、目を閉じた。
直視できない。
(聞いてた話と違う!ときめかなーい!)
〔★残念な壁ドンだった★〕