「今さわいでる連中は、『田渕(たぶち)』っていうお金持ちのおじさんの右腕と左腕よ。」
「右腕、左腕?」
「子分よ、子分。不動産会社の部下らしいんだけど~」
「ひどい両腕ですね。」
「でしょう?社長である田渕も、すごく評判の悪い不動産屋さんなのよね!」
「はあ・・・そのおじさんが狙ってる子ってどんな方です?」
「うちのスタッフで、俺と同期の子ですよ。」
「え?カズ君、さん・・・でしたっけ?あなたと?」
「ははは!カズお兄さんでもいいですよ?本人は丁寧に断ってるのに、しつこく通ってくるんですよね~」
そう言って私に笑いかけるカズ君は、少しだけ表情が柔らかくなっていた。
だから、聞けば話してくれると思った。
「田渕さんでしたっけ・・・しつこいんですか?」
「しつこいですね。半年近く通ってますから。」
「それ、ストーカーとして警察に届け出た方がいいんじゃないですけ?」
〔★犯罪にカウントしていい★〕
「いや、それはさすがに・・・・言い寄られてる本人も、メンツがあると思うので・・・」
「メンツって・・・・職場をお葬式状態にしてるのにですか?」
そう言った後で、ハッとする。
(待てよ・・・メンツを気にするというよりも、家族に迷惑がかかるからって、警察には届けないでいるのか・・・)
「あの・・・その子の気持ちはわかりますが、警察に行った方がいいですよ?あるいは、親御さんだって、そうした方がいいはずです。」
「いや、それがあの子・・・・親がいないみたいで。」
「え!?いないんですか!?」
(私のばか!無神経にも、デリケートなことを言っちゃうなんて!)
「すみません!知らなかったとはいえ、失礼なことを・・・!」
「いや、俺に謝れましても・・・。だから、余計に言い寄ってるんですよ。」
「そうなの!『俺の愛人になれば、面倒見てやる』って、調子に乗って言ってくるのよぉ~!」
「愛人っ!?」
ドロドロしたドラマの中に出てきそうな単語。
ドキッとする私に、お姉さん達はさらにドッキリ発言を続ける。
「そうそう!何でも買ってやるし、最後まで面倒見るからその代わり、エロいことさせろって言っててさ~」
「いろいろ貢いできてるみたいだけどさ~一緒に使えるエログッズとかも贈りつけてくるらしくて、あー気持ち悪い!変態でしょう!?」
「公衆わいせつ罪も、いいところですね。」
(信じられない!今だって、公の場で大騒ぎして・・・人目もあるのに、場をわきまえられないなんて!)
〔★さっきの凛にも言える台詞だ★〕