「瑞希お兄ちゃん♪瑞希お兄ちゃん♪」




ガラス越しに彼を探すが見つからない。

手をついてキョロキョロと目を動かす。


あれ?おかしいな~



(さっきより人が減ってるから、探しやすいはずなのに~!)




よく見えない。

みつからないけど――――・・・・





「まぁいいわ・・・外からではなく、中にいる間近なお兄ちゃんを見ればいいんだから~」




そう自分に言い聞かせ、ドアの前に立つ。

自動ドアじゃなかったおかげで、心の準備がしっかりできた。

深呼吸をして、扉へと手を伸ばす。




(お待たせしました、瑞希お兄ちゃん!)




浮かれる思いで、ドアを開ける。







「あなたの凛が来ましたよぉ~♪」

「来てやってんのに、なんだその態度はっ!?」



「えっ・・・・・・・・・・・・・?」






入った直後に、罵声でお出迎えされる。

続けざまに響き渡る嫌な声と、みょうな違和感。




「え・・・?なに?」




すぐにその異常に気づく。

たくさん人がいるはずなのに、店内がとても静か。





(BGMの曲は聞こえるけど・・・・?)




夕方の、それも仕事終わりもいいところの夜の時間帯。

飲食店なら、もっとにぎやかでもいいのにどうしてこんなに静かなの??






「うちの社長に恥かかせる気かよ!?」

(社長??)



「うわぁ~また来てるよー」

「最低だよね・・・」





お店の奥から聞こえてくるドスの利いた男の声と、近くから聞こえてくる小さな二つの声。





「何がですか?」




とりあえず、それを非難する小さい二つの声の方に話しかけた。



「わ、びっくりした!?」

「え?あたし達に声かけてる?」


「そうです。」



OLさんらしいお姉さん二人に声をかける。

私の呼びかけに驚く彼女達に聞いた。




「何でこのお店、こんなに静かなんですか?あの怒鳴り声は?」

「え?あーそれはー」

「えーとね・・・」


「あ、失礼しました。いらっしゃいませ!」




何か言いそうになった彼女達を遮って、見覚えのある制服の人が私の前に来た。



(あ、瑞希お兄ちゃんと同じエプロン・・・同僚の人かな?)




「1名様でよろしいでしょうか?」

「ちょっと、カズ君。」

「話の邪魔しないでよー」




割り込んできた店員に、OLさん達が怒る。

これに『カズ君』と呼ばれた人が、小声で言う。