顔をひきつらせながら通過するカップルたちの声が、わからないくらい魅入っていた。

でもすぐに、我に返る。

瑞希お兄ちゃんが、視界から消えたことで元に戻った。




「はっ!?いけない!こうしてる場合じゃない!」




ガラスから離れると、呼吸を整えて考える。



「お店に入ったら、なんて言って声かけよう・・・・!?」



来ちゃいました!はありふれてる。


会いに来ました!もありふれてる。


違和感ない言葉を探す。



(やっぱり、コーヒー専門店だからな~)




「・・・・瑞希お兄ちゃんのコーヒーを飲みに来――――――」

「だから、飲まないって言ってるじゃない!?」


(はい?)




セリフを考えていたら、邪魔された。



「あんた達の要求は飲まない!もう、いい加減にして!」

(な、なに!?)



声のした方を見れば、若い男女が固まっていた。



(全部で5人いるけど、女の子は1人・・・)



その輪の中心にいるのが、たった1人の女子。

嫌な予感がした。

そしてその直感は的中した。



「離してって!」

「いいから、来いよ!」

「セイヤ君に、恥かかせやがって!」



そう言いながら、女の子を寄ってたかって引っ張っている。



(あ・・・ヤバい?)



喧嘩にしては、一方的すぎる。

なによりも、相手の男達のガラが悪い。

腕からタトゥーが見えている。

髪の色も、毛根に優しくない色だと思った。



「やだ!やだよ、やーだ!」



(ちょっとあれ・・・誘拐だって騒がれても、否定できないんじゃない・・・!?)



そう断言していいぐらい、女の子が暴れている。




「やめてっ!やだ!誰か!」




助けを求めるように言った女の子と目が合う。




「「あ・・・」」

(助けてって言われる!?)



そんな私に彼女は――――――――――



「誰か助けて!」


スイングアイ。



「え!?無視された!?」



しっかり目があったのに、スルーされた。

見て見ぬふりをして、私以外の他人に助けを求めた。



〔★凛は地味にダメージを受けた★〕