「マリー何読んでるんスか??」

ある日の昼下がり

「ご本なんだけどね、私のお気に入りの短歌があるの!!その短歌ね、なんかね、あの…」

セトが不思議そうな顔でマリーを見つめる

そんなマリーは少し顔を赤らめて

「な、なんかね…セトに似てるんだよ!!とーっても!!」

「へぇーそうなんスか!!マリーちょっと読んでくださいよ!!」

「え、えぇっとね。ちょっと難しいんだけど…" 海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり"って言うんだよ!!」

「ほーほー。それで、それのどこが俺に似てるんスか??」

セトは興味津々といった眼差しでマリーを見つめる
マリーは高まった気持ちを抑えきれず、セトに思いの丈をぶつけた

「あのね、これはね、海を知らない女のコに男のコが一生懸命海の大きさとか、広さとか精一杯伝えようとしてる素敵な短歌なんだ!!私がこの短歌を初めて読んだときは、まだ小さくて全然意味とかわからなかったけど、そのときお母さんがね、茉梨は将来こんな体験をきっとするわって言ったの。ますますわけがわからなかったけど、今ならはっきりわかる。この男のコと女のコはきっと、きっと…」

―私と、セト―

「マリー…」

「セトはまだ何も知らなかった私に、いろんなことをたくさんおしえてくれた。ほんとに細かなことだっていっぱいおしえてくれた。掃除機の使い方とか、トイレの流し方とか、いーっぱい。それに…この世界の残酷さとか、こんな世界の…」


愛しかたとか。

「だから、今ならお母さんの言いたかったことがわかる。私はきっといつか世界のことを知らなければならなくて、それが運命だとお母さんはわかってた。それに、それを伝えるのは自分じゃないことも…だから私に世界をおしえてくれたのはセトなの!!セトしかいないの!!だからこの短歌はセトなの!!セトと私なの!!」

「そうっスね、マリー」

そう言ってニカッと笑う彼は
きっと麦藁帽を被った少年なんだろう。