七瀬さんが亡くなった海は、磯遊びもできる岩場がある海水浴場だった。

現在はシーズンオフな為、人の姿はあまりなく、サーファーがちらほらと見えるくらい。

私は、ニットのテーラードジャケットを海風にはためかせ、砂浜を歩く椎名先生をちらりと見やる。

……ここに来るのを選んだのは、椎名先生だった。

この場所には、毎年、七瀬さんの命日に訪れているらしい。

すまなかったと、謝りに。

だけど、今日は違う。

向き合う為にやってきたのだ。


少し前を歩く椎名先生の背中を見つめながら、優しく寄せては返す波音に耳を傾ける。

やがて、先生は足を止めるとデニムのポケットに親指をひっかけながら海を眺めた。

その瞳は、少しだけ悲しそうに揺らいでいるように見えるのは気のせいだろうか。


「綺麗ですね、ここの海水」


テレビで観たターコイズブルーには敵わないけど、この海も透明度が高くて泳ぐのが気持ち良さそうだ。

先生は短く「そうだな」とだけ答え、また視線を海へと戻した。