翌日──

私は悲しい気持ちを解消したくて、放課後になると数学準備室を訪れた。

ここにいれば勉強することで暗いことを考えないで済むし、何より椎名先生がいる。

幸せな気持ちを充電するには、椎名先生の近くにいられるこの時間が1番だ。

問題を解いてる最中、ふと顔を上げて、テストの採点をしている先生の背中を見つめた。

時折、野球部の声が遠くから聞こえてくる静かな室内に、先生の赤いペンがさらさらと答案用紙を走る音がする。

その何気ない日常の風景に、胸が苦しくなった。

この時間が過ぎれば、私はまたあの家に帰らなければならないから。

今日はずっとここにいたい。

先生の側に、いたい。

そう思ったら、知らずため息が溢れる。

それが椎名先生の耳に届いたのか、先生はキッと椅子が軋む音と共に私を振り返った。


「……解けないのか?」


どうやら数式で困ってると思ったようで、先生は僅かに首を傾ける。


「それは大丈夫」

「それ“は”? なら、他に問題があるのか」


しまった。

これじゃまた先生に心配をかけてしまう。