『あ、やっと笑ってくれましたね』

『え?』



春川さんは嬉しそうに『ふふふ』と笑う。



『あの日の事ずっと気になってたんです。あの人は何であんなところで傘も差さずにいたのか。苦しそうな顔をしていたのか。気になってずっと考えてたら、いつの間にか毎日あそこで立ち止まってあなたの姿を探してました』



春川さんは背凭れに背を預け、空を見上げながら言う。


今日は初めて会った日のどんよりとした空とは正反対で、透き通った真っ青な空だ。


綺麗だと、純粋に思った。


毎日空はそこにあるのに、綺麗だなんて思ったこと一度もない。


多分、彼女と見上げる空だから、いつもよりも特別澄んで見えるんだ。



『綺麗な空……』



彼女がぽつりと呟く。


心臓が壊れそうだ。


それぐらい速く胸を打ってる。


同じことを同じタイミングで想ってた、そんなことが嬉しい。



好きな人が出来ると世界が変わるって言うけど、それは女子とロマンチストな一部の男が頭の中を花でいっぱいにした時に言うことだと思ってた。


だけど、俺も同じだ。


自分の世界が、色付く。


今までなんとも思わなかった物が綺麗に思えたり、些細なことでも楽しいと思えたりと、感情が豊かになる。