その日、タイミング良く数学の授業が1日の最後にあった。



「じゃあ問7は次までにやっておくように。 よし、今日はこれで終わります」



凛ちゃんがクラスを見渡してそう告げた。


すごい先生らしくなってきたな、なんて。 偉そうだけど、そんなことを考えてしまう。



「九条せんせーい!」



教科書類をまとめて教室から出ていこうとする凛ちゃんを、橋本くんが止めた。 例のクラスの中心的存在な男の子だ。


席は1番後ろなのに、その通る声は余裕で凛ちゃんまで届いている。


今朝のことを言うのか。 凛ちゃんはなんて答えるんだろう……。



「俺ら夏休みに遊園地行こうと思っててー、九条先生も来てくれねーかなと思ってるんですけど」



びっくりしたのか、目を丸くして橋本くんを見る凛ちゃん。


前から2番目の席、わりと近いところから凛ちゃんを見つめて、その口が開くのをドキドキしながら待つ。



「誘いはうれしいけど、ひとり教師が混じったら邪魔じゃないか?」