「テストお疲れさん」
ドアをゆっくりと押して、中へ入った。
視界に飛び込んできたのは、凛ちゃんの優しい笑顔。
「数学ちゃんと出来たか?」
「う、うーん……まあまあかな」
日常会話なのに、久しぶりだからかドキドキする。
美浜先生との話を聞いて、距離を置こうと決めた。
今週いっぱいで、美浜先生は教育実習を終えて大学に戻る。
だから、こうして凛ちゃんとまともに話すのは、4週間ぶりなんだ……。
「悪いな、急に呼んだりして」
「ううん、大丈夫!」
なにがあったって、きっとあたしは凛ちゃんを優先してしまう。
あたしの返事に柔らかくほほ笑んだ凛ちゃんは、イスからゆっくり立ち上がった。
「……なあ、今から変なことしていい?」
「へ? 変なことって……」
と、首を傾げたとき、凛ちゃんとの距離はほぼ0に近くて。
彼にぎゅっと抱きしめられていた。
「……っ、え、凛ちゃ……」
一瞬なにが起こったのかわからなかった。
頭が真っ白とは、まさにこのことだと思った。