「あの…怒ったりして、私…」

思わず下を向いてしまう。
大好きな、秀の笑顔。
素直にさせられてしまう。

「――ありがとう。」

「えっ?」

顔を上げると、秀はまだ笑顔だった。

「叱ってくれて。」

「なにそれ!」

私がふっ、と笑うと、
秀はすっと真顔に戻った。

「一条の説教って、愛こもってるじゃん。
だから好きだ。昔も、今も。」


――今なら、言える気がした。

「――秀。」

「ん?……っ」

そっと秀に近づき、彼の頬に手を添える。
冷たくて、ちょっとかさついていた。

「名前で呼んで。」

「…」

「ずっとあなたのこと、忘れられなかった。
――好きなの!
だから…だから、呼んでほしい。」

「…」

「秀?」

「…」

「しゅ――…!」


あっ、と思ったときには、秀の唇と私のそれはふれ合っていた。

「…っ」

秀の唇は頬と同じで、ひんやりとしていた。
秀がこごえてしまわないように、私の熱が少しでも移ればいいのに、と思った。