「秀に高校のとき勉強を教えてたのは僕なんだよ。」

「あ…あ。そうなんですか。」

「こう見えても頭いいんだよ?T大卒だし。」

「えっ、すごい。」

「ふふ…あ、それである日ね、家に行ったら秀がうたた寝してて。
起こそうと思ったんだけど、涙流してやんの。これはなんかあったなと思って。無愛想だけどいじめられるタイプじゃないから何でだろうと考えてたら、
ぽつっと呟いたんだよね。

『ひより…』って。
何のことか分からなくて首を傾げたよ。
日和って珍しい名前だろう?」

「は、はい。」

心臓の音が聞き取れるくらい大きく鳴った。


「秀が起きてから聞いてみたら、案外簡単に教えてくれてさ。相当参ってたんだろな。
彼女と別れたばっかりだって。きっと傷つけたって。」

頭の中であの日の会話がリピートされる。

「私は傷ついてませんよ…理由、なんとなく分かったから。
話を聞いてくれないからちょっと腹がたちましたけど、それだけです。」

「秀はね、ずっと苦しんでいた。機会があったらそうやって言ってやって。」

「はい。」