「仕方なく第三の公開自殺を行うことにしました。前に使っていた『エンドウとキンセンカ』で自殺志願者を探しました。そこで最良の志願者を見つけたんです。彼は公開自殺に興味を持っていました。どうにかしてできないかと訊いてきたんです」
 元プロサッカー選手の青年。名前もうれている彼が公開自殺をし、遺書に『僕の体を使ってください』と書き込んでいたらどうなるか。その影響は計り知れない。
 谷分は彼の公開自殺行為を利用して、内容の違う遺書に書き換えたのだ。
「彼には悪いことをしました。けど、彼の公開自殺を発端に模倣する人が増えて、これで遥に臓器が提供されれば、遥以外の苦しむ人にも提供されれば、そして、他の公開自殺と紛れてしまえば、俺の起こした第一、第二、第三の公開自殺も他殺と思われないはずだった」
 谷分が話をとめる。自供する苦痛があるように見えた。そう、次が運命の久保の事件だ。
「けど、エンドウとキンセンカのサイトで、犯人を知っていると書き込んだ人がいたんです。俺ははじめ、嘘だと思って無視していました。すると、第一、第二の公開自殺に謎があると書き込まれたんです。慌てました。どこかで会わなければいけない。口止めするしかない。そう思いました」
 慎重な久保のことだ。ネット喫茶で書き込みをし、一つ一つの会話でパソコンを変えて同一人物と悟られないようにしていたのだろう。
「知ってる奴、一緒に自殺屋を追及しようぜと書き込み、場所と時間を指定しました。何人くるかわからなかった。だから隠れて待ってたんです。確認できたのは女性ひとりだった」
 久保が自殺屋の正体をつかんで自供させようとしたのを利用して、谷分は嘘の書き込みで呼び出したのだ。
 久保はそれが犯人の書き込みとまでは予想していなかった。だから、待ち合わせ場所に向かってしまった。
「時間が過ぎて帰る、彼女の後を追いました。どこに家があるか調べておけば、どうとでもできると思った。そうしたら三日後にきたんです。日野のところに彼女が……」
 おそらく、ルポライターを目指していた久保は、自殺屋事件に興味を持って調べはじめた。十一朗たちと同じ第一、第二の公開自殺を調べるルートから谷分と日野の存在を知り、自殺屋であると確信したのだろう。二人を徹底的に調べあげるうちに、どこかで証拠をつかんだのだ。
 谷分や日野が久保殺害計画を引き起こすほどの、決定的なものを叩きつけた。
 それが、もりりんと遥のことだったに違いない。
「目的が達してないあの時に、捕まるわけにはいきませんでした。殺すしかないと思った。みどりに聞いた、待ち合わせを指定されたあの日の三時間前に、俺は彼女の自宅へ向かいました。両親が出掛けたのを確認してから、中に侵入した……」
 久保は谷分の顔を知っていた。見た瞬間、殺されると恐怖したはずだ。必死の抵抗をしたが結ばれず、命を落とした。
 裕貴が両手で目を覆い、ワックスが唇を震わせて、谷分を睨みつけた。
「捕まるわけにはいかないから、久保を殺したってのか。あんなにいい奴を」
 ワックスの叫びに、谷分が頭を下げる。そして、大きく息をついた。
「俺も、どんな方法を使っても遥を助けたいと思ったんだ」
 ワックスが、谷分に飛びかかりかけたのを十一朗はとめた。犯行の動機を知っているからこそ、谷分が公開自殺を続けた理由を知っていた。十一朗は訊いた。
「谷分さんも遥さんも、お互い愛し合っているんですね? それは今も変わらない」
 谷分は顔をあげた。十一朗を睨みつける。前のめりになって突っかかってきた。
「違う、俺が勝手にひとりでやったんだよ。全ての事件を」
「亮! もういいんだ。プラマイは何もかも知ってるよ。ひとりで罪を被るな」
 もりりんが叫んだ。谷分が目を見開く。それを見た日野が涙を流しながら崩れ落ちた。
 その時、ワックスが「あっ」と声をあげた。日野ともりりんを見て動かないでいる。
 不思議がって皆が見る中、ワックスは口を開いた。
「思い出した……あの日野って子、俺と久保が追いかけた、もりりんの彼女だ……」
「嘘っ!」
 裕貴が声を上げる。嘘ではない、真実のはずだ。
 ワックスの言葉は、久保が日野ともりりんの二人に関係があると知っていた証拠だった。
 その後、起きた第三の公開自殺。そして書き込まれた元サッカー選手の遺書を見て、久保は更に三人が犯人であると確信したはずだ。
 もりりんの妹の移植手術の順番が早く回ってくるように、共謀して公開自殺事件を起こしていると。