微かな希望は潰えた。
 刑事たち全員が金縛りにあったかのように動きをとめた。中には、あまりの衝撃に落胆し、椅子に座りこむ者もいた。
『信じられないもの』を前に、マウスを握っていた刑事は再び唸った。
「……公開自殺だ」
 少女の行為は尋常ではない。狂気としか表現できない。時として最後を望む者は、思いがけない行動をすることがある。
『道連れにしたかった』『仲間が欲しかった』『どうせ死ぬなら有名になりたかった』。
 自暴自棄となった末の集団自殺、通り魔殺人――どれも身勝手な行動だ。
 この少女の動機も同じだ。人生を投げて、自分の最期を大衆にさらし、注目されようとしている。
 が、大きく違うのは他人を犠牲にせず、自分だけが命を落としているということだ。この場合、少女は加害者ではなく被害者となる。となれば、世間はどういう目で少女を見るのか?
 自分はここにいる。虐められている。誰でもいい、私の復讐を果たしてという魂の叫び。
 そう閲覧者が捉えれば、もはやとめようがない。ただの自殺ではなく、事件に発展していくだろう。
 重苦しい空気の中、刑事たちは徹夜で捜査に追われた。電話も鳴りやまなかった。情報を得ようと駆けこんでくる記者の数も、騒ぎに比例するように増していった。
 警察は記者に急かされ、深夜にもかかわらず会見の場を設けるしかなかった。
 一人の少女が起こした『公開自殺』。
 全ての放送局、ネットの情報で事件は一夜にして全国にかけ巡り、国民を震撼させた。
 しかし、どんな事件も時がたてば、記憶の中から薄れていく。誰もが、少女の一件だけで騒ぎも鎮火するだろうと考えた。
 ところが、警察と記者のよみは外されたのである。それは始まりでしかなかったのだ。