誰もが息を呑んだ。これは夢ではないか? 本当に現実なのかと疑った。
 土気色の手が、力なく垂れさがっている。椅子を蹴って身を躍らせた反動のせいか、体はゆっくりと右方向に回転していた。
 見えたのは背中だ。正面ではない。本当に写真の少女なのか――
 もうすこし長く画面を見ていたら、少女の顔を確認できたのかもしれない。
 しかし、刑事たちは即座に行動を起こさなければいけなかった。
「この現場がどこか調べろ。そして、このホームページはすぐに閉鎖だ」
 鳴りやまぬ電話から、多くの者が閲覧していると予想された。
 少女は自殺の理由を、いじめであると綴り、いじめをしていたクラスメイトの名前と顔写真、日記でどの日に誰にどんないじめを受けたかという内容まで、事細かに記していた。

【私が死んだ理由は全てここに書いておきます。
 死んだら呪い殺します。そして、普通に死ぬ気はありません】

 少女の残した遺書と動画が、彼女の憎悪の深さを示していた。
 すぐに少女をいじめていた者に、罵倒の嵐が起きるに違いない。加害者は未成年だ。将来にも関わる。
 いじめは罪であっても、ネット上の罵倒で深い罪の意識に苛まれ、少女のように自殺されたらかなわない。
 映像が録画であり、少女が下ろされていてほしい。すでに家族には連絡があったかもしれない。微かな希望をもちながら、刑事たちは電話の対応と現場の特定に急いだ。
 しかし、一人の刑事が画面の変化を見て声を上げた。
「おい、録画じゃないぞ」
 扉を開け放ち、部屋に入ってきた母親が、我が子の無残な姿を見て全身を強張らせ、絶叫する姿が映し出された。
 首にのみ集中した娘の体重を、少しでも軽くしようとしたのだろうか。抱きついて、必死に体を持ち上げようとしている。
 音声がないため何を叫んでいるかはわからないが、すぐに何を叫んでいたか理解できた。父親も部屋に飛びこんできたのだ。母親は助けを求めていたのである。