「現場を確認せよ!」
 一課長が声を張り上げた瞬間から、捜査一課全ての電話が鳴り響いた。誰もが経験したことのない現場だった。全ての電話に応対する余裕などない。まさに修羅場と化したのだ。
 慌てて一人の刑事が何事か確認しようと、パソコンを起動させる。苦心しながらも一つのホームページに行き着いた。
 一報の内容が、『信じられないものが、あるホームページで公開されている』というものだったからだ。刑事全員がパソコンの画面を見つめ、誤報であってくれと祈った。
 が、彼等の目の前に映し出されたものは誤報ではない。真実の映像であった。
「有り得ない……なんで、なんで、こんなことができるんだ……」
 マウスを握った刑事が、震えた声で唸る。他の刑事たちは答えられない。沈黙――
 ネット内に潜む悪魔に魅入られ、魂を抜き取られたかのように、全員動けない。ただ、断続的な呼吸音だけが室内に響くのみだ。
 まず刑事たち全員の瞳に映ったもの。それは、数行にわたって打ちこまれた遺書だった。

【もう我慢できません。疲れました。
 私が死んだ理由は全てここに書いておきます。
 死んだらみんな呪い殺します。そして、普通に死ぬ気はありません】

 驚くことにホームページの管理者は、自分の本名と顔写真、学校名も公開していた。
『小林沙耶』中学二年生女子、写真はアルバムのものだろうか。服装は制服、背景が無地のもので笑顔ではない。それが逆に刑事たちの緊張を高めた。
 そして、顔写真と遺書の横には動画が公開されており、先程まで文字を書きこんでいたであろう少女の姿が流れ続けていた。
 流れ続ける動画に映し出されていたもの――
 それこそが、通報で語られた『信じられないもの』の正体だった。
 カーテンの隙間から僅かに街灯の光が漏れ、室内を照らしている。視覚がかろうじて務まる薄暗い室内にあったのは、中学生少女が好む有名人のポスター。大量のディスクや本、巨大なぬいぐるみ。そして、少女とその足元で倒れたイスだった。
 その倒れた椅子の上で、少女は一本の縄に身を任せ、首を吊っていたのだ。