話が一段落したのを見たもりりんが、クリーミィプリン最後のひとすくいを口に入れる。
「けど、警察が捕まえられるのかな? 犯人につながる証拠は何もないんだろ?」
 もりりんが一番冷静に事件を分析している。
 確かに、自殺屋という者が本当にいるのかすらも、警察はつかんではいない。一種の都市伝説のようになってしまっているのだ。
 自殺屋を推奨して神と崇める輩まで存在する。俺も殺してほしい。自殺屋知ってる人は紹介してくれとまで書き込む者もいる。警察は関与するなとまで掲示板では書き込まれ、自殺の自由まで語られているのだ。
 十一朗は噴火しかけた感情をギリギリ抑えこむと、推理小説の続きを読みはじめた。
 その時だ。騒がしい足音が近づいてきたかと思うと、部室の前で止まる。
「東海林くんいる?」
 そして、扉が開け放たれると共に声が響き渡った。入ってきたのは五人目のミス研部員、久保京子だ。
 扉を閉めた勢いの風で、久保の女性誰もが羨む艶のある長い髪が、波のように揺れた。その美しい髪の動きを取って、同級生たちは彼女のことを『サララ』と呼ぶ。
 しかし、久保はこのあだ名で呼ばれるのは恥ずかしいらしい。
 ミス研部では、「お願いだから『サララ』と呼ばないで」の渾名撤廃願いが出ている。
 部室を一通り見回した久保だが、さすがに高く積みあげられた資料の中にいる十一朗は見えないらしく、まだ気づかない様子で捜していた。
 しかも相当慌てて走ってきたのか、大きく息を切らせて、肩を上下に動かしている。
 すると、不意にワックスが笑い声を上げた。喉からというよりも鼻から出した声だ。
「プラマイのこと、ミス研で東海林くんって呼ぶの、久保だけだよな……」
 ワックスは言って、視線を久保から十一朗に移動させた。
 十一朗は、そんなワックスのからかいを無視して推理小説を閉じる。そして、久保に見えるように手を上げると左右に振った。
「ここにいるよ」
 十一朗の声が響いたと同時に、久保は駆け寄ってきた。切迫した様子だ。
 その目は真剣で、雰囲気を感じ取ったのか他のミス研部員も息を凝らす。
「東海林くん、明日、私の家に来られない? 大切な話があるから聞いてほしいの」
 久保が言い終わると同時に、ワックスが「ヒュー」と超高音の口笛を鳴らした。すると、すぐに久保は手を振って否定する。
「違う違う。そういう意味じゃなくて……第一、そういう意味なら三島さんの前で言えないよ」
「俺と裕貴は幼馴染みってだけ。付き合ってないって何度も言ってるだろ」
 言い返した十一朗の背後で、ワックスが「嘘ばっかり」とつぶやいた。