――では会社員のほうは? 誰か絡んでいるのか? 証拠は残っていないのか?
 噂が広がる中、会社員のパソコンのデータも消去されていたという記事を、ある週刊誌が載せた。
 これは事件だ。ネット内に自殺幇助をする『自殺屋』が潜んでいる!
 派手な記事はワイドショーにも伝染し、連日、自殺屋はいるのか? 犯人像は? という放送が続けられた。
 これほどの騒ぎになれば、第三の公開自殺は起こしにくいだろうと評論家は口を揃えた。
 ところが、願いに近い思いは砕かれ、会社員の公開自殺から、わずか二日後に第三の公開自殺は起きたのだ。

【頑張っても、いいことないです。夢なんか想像でしかない。
 だけど僕は人生の敗北者ではありません。
 困っている人のために死ぬつもりです。僕の体は使ってください】

 第三の公開自殺。命を絶ったのは元プロサッカー選手の青年だった。
 青年は高校で注目されて一流のチームに所属した。ところが三か月後、彼は歩行中に交通事故にあって右足に大きな怪我を負い、フル出場できない体となってしまった。
 途中出場をしながらもリハビリに励む日々。
 しかし、そんな彼の努力は水泡となって消えた。チームからの戦力外通告である。
 自殺の原因は先の人生を悲観してとされた。
 再び、たくさんのコメントが書き込まれた。ところが、今回は前と少し様子が違っていた。
『俺、応援してたんだよ。この選手!』
『死=生? 自殺しても次の命に引き継がれるって考えか』
『人を巻き込んで死ぬよりかは、まし。立派』
 青年を戦力外通告したチームに、罵倒が向けられることはなかった。
 書き込みの内容は、全く違う方向へと路線を変えたのだ。

【困っている人のために死ぬつもりです。僕の体は使ってください】

 自殺は悪いことではない。臓器を提供すると示せば、他の人の命に結びつく。そんな呼び掛けをするサイトが生まれ、それに対抗するように自殺を否定するサイトも現れた。
 パソコンで公開自殺と検索するだけで三十万もの検索結果が出るほどになり、その騒ぎと重なって公開自殺をする者が増えはじめた。
『少女は自殺したのか? 自殺屋は絡んでいるのか? 自殺屋がいるとすれば目的は?』
 裕貴が見ている新聞には、公開自殺十八件目発生という記事がある。
 が、現在。騒ぎは沈静化に向かっているため、記事は週刊誌の宣伝広告の一部だ。