死を覚悟した者がする特有の行動が身辺整理である。家族は娘の異常行動に気づけなかったのだ。
 今まで加害者だった少女は、世間の冷たい視線、誹謗中傷の嵐を受けて、人生ではじめて、いじめの被害者の気持ちを理解することができた。
 が、それは彼女にとって命を代償にした教育料となってしまったのだ。
 いじめを繰り返した少女は、ここまでの事態に発展するとは思いもしなかったであろう。
 気に入らないからこらしめただけ、学校に来なくなればいいのに……くらいにしか考えていなかったのかもしれない。
 だが、いじめられていた側にとっては、相当深刻な問題だったはずだ。積年の恨みをどうして返してやろうか。ただ死ぬだけでは相手が喜ぶだけ。最強の呪詛をかけて死のう。
 少女は、そう考えた末、公開自殺という方法まで行き着いて実行に移した。
 しかし、相手が世間の罵倒に負け、自殺するとまでは予想もしてなかっただろう。
 そしてそれは、呪詛だけですむという、生易しいものではなかった――
 少女が通学していた中学の校長は、いじめを黙認していたという理由で責任を取って辞職、担任も中傷にさらされて退任した。
 放送局は学校名を公表しないながらも、連日、少女たちのいた校舎にカメラを向け続けた。
 しかし、どんな事件も時がたてば忘れ去られる。この事件も例外ではなかった。
 あれほどあった騒ぎも、二週間がたった頃には終息していった。誰もが忘れかけていた。
 ところが、炎は鎮火するどころか奥底でくすぶり続け、猛火となる力をつけていたのだ。
  
【二十五年間、必死に尽くしてきました。残念です。
 私の死で、社の方針が変わってくれたら……それが願いです。
 みなさんさようなら。お元気で】

 少女の時と同様に一人の会社員男性が、自分の最期を公開して自殺した。自殺の理由は不況による一方的な解雇だった。
 更にホームページには、会社名と会社員男性の解雇を決定して通告した、社員の名前も公開されており、今度はその会社と名前を公開された社員が誹謗中傷の的となった。