次の日、俺は一人で電車に乗りながら考えていた。
ひとりでも生きていけるように、と思ったことがきっかけで、いろんなことが起こったな。
あれから、まだ一ヶ月も経っていないんだ。
生まれてからずっと、重い石を背負っていたつもりで生きてきたけど、
よく見たら小さな石だった気がする。
それも磨いたら光るのかもしれない。
…この能力をもっと人のために使えたら、光るのかな。
そう気づいて、窓に映る自分と目が合う。
…そんなことできるんだろうか…。
咲葉さんがいてくれれば何でもできるよ。
…いなくなったら?
わからないけど…そんなことを今考えても仕方がない。
だってこの先、何があるかわからないんだから。
一ヶ月前の俺が、今の状態を予想できただろうか?
できるはずがない。
だったら、今の俺が未来を案じても仕方がないんだ。
咲葉さんにメールで報告しよう…と思って、まだ寝ているに違いないと気づく。
あとで怒られるからやめておこう。
未来のことだけど、それは予想できる。

電車を降りて学校へ向かいながら、また考えていた。
いつのまにか俺は、心の声が聞こえてもいいと思うようになった。
咲葉さんと会って色々あるうちに、なんだかどうでもよくなって
顔をあげて歩いていたら、慣れてしまったのもある。
まだ”変な頭…”と言われることはある。
でも”イケメン…”と聞こえることもあって、悪いことばかりじゃないと気づいた。
目を隠して下を向いても、聞こえるときは聞こえてしまうんだから
聞けばいいじゃんって思う。…我ながら、咲葉さんに似てきたな。
咲葉さん起きたかな。まだ起きないだろうな…。
ベッドが狭くなるって言われて、泊まれなかった。まあ金曜から二泊してるんだけど。
誕生日プレゼントはダブルベッドにしよう。でも部屋が狭くなるって言いそうだな…。
いっそのこと、マンションごとプレゼントしよう。
未来を案じるのはやめたのに、こういう未来は簡単に描けるんだな。
咲葉さんが言うとおり、俺って面白いな。

そんなことを考えながら保健室に着いた。
「おはよう。敦哉。聞いてみたらね、図書館の司書を探してるみたいよ。
 田島の紹介なら資格がなくてもいいって。」
「そっか…。でも咲葉さん、そういうの嫌がりそう。」
「事務員の話も、敦哉の世話になるのは申し訳ないって、言ってたんだっけ。」
「うん。別れたら辞めないといけないしって…。」
「本当に面白い子よね…。はやく会いたいわー。」
『いつ紹介してくれるのかしら…』
「親に紹介してからね…。」
俺は目をそらす。祐子さんと咲葉さんって、
ちょっと似てるから、もしかしたら犬猿の仲になるかもしれないよな。
ここは慎重に会わせたい。
「でも図書館なら、高校生も大学生も使えるからいいわよね。」
「うん。その気になってくれるといいなあ。」
「もし断られたら、私から話すから言いなさい。」
『一言ガツンと言うわ』
「うーん…。」
「甘えることも大事なんだけどね。若いから仕方ないのね…。」
咲葉さんの気持ちもわかるけど、祐子さんの言うこともわかってきた気がする。
「せっかくコネがあるなら、使えばいいよね。」
俺がそう言うと、祐子さんが驚いた顔で答えた。
「そう。そうなのよ…。敦哉、変わったわね…。」
『能力を使うのは、ずるいなんて言ってたのに』
「うん。同じことなのに、今はずるいと思わないや。」
咲葉さんのおかげだ。やっぱり会いたくなる。
…なんとしても、図書館で働いてほしい。どんな手を使っても…。
「敦哉、何か悪い顔してるわよ…。」
『可愛い顔が台無し』
顔をさすって直していると、予鈴が聞こえた。