迎えに来るって言ってたけど、咲葉さんは来てくれるんだろうか。
…怒っていたからなあ…。話してくれなかったらどうしよう。
鬱々と考えていると、電話が鳴った。咲葉さんからだ。
「もしもし…。」
「あ、彼氏くん?どこにいるのー?」
電話の向こうの声は、咲葉さんじゃなかった。
がっかりしながらも、俺は答える。
「えっと、大きな柱のところにいます…。」
「大きな柱ばっかりだけど…。あ、ほんとにふわふわ!」
携帯からじゃないところから声が聞こえたので、そっちを見ると、
咲葉さんの携帯を持った女の人がいた。
「山本の彼氏くん?」
『本物、可愛いー』
そう言って近づいてくる。…咲葉さんの姿は見えない。来てくれなかったんだな。
頷きながらも、がっかりしていると、
「山本のところに行こう。」
『不審がってるなー』
そう言うので、その人についていった。
酔っぱらいとは思えない速度で歩くので、必死でついていくと、すぐに店に着く。
「連れてきたよー。」
その人が言った先に、咲葉さんがいた。
…完全に不機嫌な顔だ。俺は自分のしたことを激しく後悔する。
すると、咲葉さんが立ち上がって言った。
「…敦哉、小宮山に何かされなかった?」
不機嫌な顔は心配そうな顔に変わって、人がたくさんいるというのに抱きついてくる。
「こんな短い時間じゃ何もできないよー。」
連れてきてくれた女の人が言った。
その声を無視して、咲葉さんはしっかりと抱きついてくる。
戸惑っていると
「山本ー、彼氏くん困ってるぞー。座らせてやれよ。」
男の人が言った。
『酔っぱらいだなー』
呆れている心の声が聞こえる。
そっか。咲葉さん、酔ってるんだ。だから人前で、こんなことができるんだな。
納得していると
「もう帰ってイチャイチャする。」
振り返って、男の人に咲葉さんは言った。
「お前、誰のために送別会だと思ってんだよ…。」
『ぬけがけしやがって…』
ぬけがけ?と思っていると
「彼女がいない森本には、わからないよ…。」
咲葉さんが言った。
『彼氏できたからって、いい気になりやがって…』
「いいから、座れ。」
目が据わっている森本さんが言った。
俺も帰りたいけど、咲葉さんは主役なんだから、帰っちゃダメだよな。
「咲葉さん、座りましょう。」
俺が言うと、咲葉さんが心配そうに見上げる。
『大丈夫?酔ったふりして帰れるけど』
そうなんだ。俺が心配で、酔ったふりして帰ろうとしてたんだ。
俺が変なことしたせいでこうなったのに、咲葉さんは優しいな。
二次会を楽しみにしていたんだから、ちゃんと楽しんでもらわないと。
そう思い、大丈夫です、と俺は頷いた。
「見つめあってないで、はやく座れ。」
さっきよりもドスの効いた声で、森本さんが言う。
「はーい。」
つまらなさそうに咲葉さんは言って、俺の手を引き、椅子に座った。