しかし、俺の幸せは長くは続かなかった。
昼休みに携帯を見ると、咲葉さんからメールが来ていた。
『やっぱり、土曜に泊まってもらってもいいかなー。ごめんね』
何があったんだろう…。気が変わってしまったんだろうか…。
でも返事をしないと、と思い、
『わかりました。送別会、楽しんでください。』
心にもないことを書いて、送る。
重い体を引きずりながら保健室に行くと、
「あらー。朝はご機嫌だったのにー。」
祐子さんに早速からかわれた。
…来なければよかった…。
はあ、とため息をついて座ると、祐子さんは嬉しそうに言った。
「つきあっても大変でしょー。」
「うん…。」
本当にそうだ。
つきあうってことが、こんなにも情緒不安定になって、大変なものだとは思いもしなかった。
「はあ…。」
弁当を出しながら、またため息をつくと祐子さんは言った。
「でも、楽しいこともあるでしょ?大変なことばかりじゃないはずよ。」
…確かに、つきあってるからセックスできるわけで、
泊まる約束だって、ただの好きな人相手にはできないよな。
でもー…。一回喜んでしまったから、余計にショックが大きい…。
「うん…。そうだね…。」
暗い気持ちのまま、弁当箱を開ける。
「返事の割には納得してないわよね。…そういうの、やめたほうがいいわよ。」
祐子さんの冷めた声に驚いて、俺は顔を上げた。
「え…?どういうこと?」
「納得してないのに、納得してるふりをしないでってこと。
 私は、敦哉のそういうウジウジした態度に慣れてるからいいけど、
 咲葉ちゃんはショックだと思うわ。…本心を言ってくれないのって、悲しいのよ。」
サラダを食べながら、祐子さんは言った。
そっか…。すごくけなされた気がするけど、納得してしまう。
俺は咲葉さんの本心を聞けるけど、もし隠されたら悲しい。
咲葉さんだって、俺が本心を隠したら悲しいのかもしれない。
あ…。朝、無理してるの、バレてたもんな…。
だから、送別会から早く帰るって、言ってくれたのかな。
咲葉さんに嫌われたくなくて、ワガママ言わないようにと思ったけど、
逆に悲しませて困らせたことになるのか。
「つきあうって、思ったより難しいんだね…。」
なんだか自信がなくなってきた。
咲葉さんは、なんでこんな俺と、つきあってくれたんだろう…。
全然わからなくなってきた。
「ねー。こんなウジ男の、どこがいいのかしらねー。」
祐子さんの言葉に顔を上げると、ニコニコ笑っている。
なんだか相談する相手を、間違えている気がする…。
でも仕方がない。和成は忙しいし、他に相談できる人はいない。
「俺のいいところ、咲葉さんになったつもりで、考えてみてください…。」
俺は恥を忍んで、祐子さんに言った。
「ふっ、ふふふ…。」
笑われている…。もう修に相談しようかな…。
すると、祐子さんは言った。
「そういう素直なところ。大好きだよ。」
はっとして俺は顔を上げる。…咲葉さんが言ったみたいだった…。
そうだ。咲葉さんはいつも俺のことを、素直で可愛いって言ってくれるんだ。
なのに、素直に”寂しい”と言わずに、平気なふりをしてしまった。
俺…可愛くなかっただろうな。
「まあ、なんでもかんでも、素直に言えばいいってものじゃないけど、
 我慢してるのだってどうせバレるんだから、言えばいいのよ。」
『敦哉は素直すぎるから』
「うん…。」
俺はふと、思いついて時計を見た。まだ1時にはなっていない。
携帯を取り出し、咲葉さんにメールを書く。
『一日延びて寂しい分、夜は激しくなってしまうと思いますが
 よろしくお願いします。』
携帯から顔を上げると、祐子さんが言った。
「なに?何を書いたの?」
嬉しそうにニヤニヤしている。
言えるわけない、と思っていると、携帯が鳴った。
『激しい敦哉も大好き。楽しみだな。』
咲葉さんの返信を読んで、思わず笑う。
「うわ、きもーい…。」
見られたようで祐子さんが呟いた。
祐子さんもかなり素直だよな、と思いつつ、
「アドバイス、ありがとうございました。」
俺は素直に頭を下げて、お礼を言った。